第6話

「はっ、えっと…それは…?」

清水くんは分かりやすく混乱している。私もしている。

「あっ、あの、花火、撮りたくて…」

「なるほど、そういうことでしたら。」

即席の言い訳で、清水くんはあっさり了承してくれたのだが、私は自分が何を言っているのか、どういう気持ちであんなことを口走ったのか、全く消化できていなかった。

「それにしても意外ですね。木下さんは花火とか行かないで自分の部屋でペンをまわして拗ねてそうなのに。」

そう言って清水くんはらしくなくお茶目に笑った。

「失礼な、私だって花火くらい、行くし…」

こうして私は荒技で花火の約束を取り付けたのだった。でもいつかは、花火を撮りたいなと思っていたので良かった。




星たちが淡い光を放って瞬いて、音楽室を出ると月の光に照らされた廊下が美しかった。

呼吸するようにシャッターを切る。

自分自身はどうであれ、世界には美しいものが意外とごろごろ転がっているように思う。

「凄い着眼点ですね、よく撮れましたか?」

清水くんは窓の外の月を眺めながらそう言った。

「僕では真っ先に月を撮ってしまうでしょうね。」

何だか悲しそうに呟く。

「いや、捻くれているんだよ。それに、私だって夕陽とか、すっごい綺麗な月とかはばんばん撮るよ。でも、でもね、初めから綺麗なものも好きだけど、いつもは無機質なものがたまに綺麗になったりするのが、好きなんだ。特に。」

そう、私は捻くれている。昔から屁理屈ばかり、嫌われるタイプの典型だった。

自分でも自分が可哀想だとはよく思う。

「素敵ですね。それは捻くれていないですよ、木下さんに撮られるものは幸せですね。」

「どういうこと?」

私は聞き返す。

「いつもは綺麗だと言われないものが誰かに綺麗だと言われるみたいなものなのですから、そのものにとっては幸せでしょう?」

清水くんはけろっと答えた。

何だか胸が熱い、また心が溶ける。この人の前では弱い部分が出てしまうな。

「さ、帰りましょう。」

そうして二人で校舎を出た。













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炭酸水。 朝井ねむり @nemu_i

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