現実の問題をライトノベル風の設定で考察してみる。
ある日、貴方は新しい『能力』を手に入れた。
それは、生身の貴方では到底実現不能な能力であり、加えて一般的な肉体能力を遙かに凌駕している。それゆえ、その能力を行使している間、貴方はまるで別な世界に移動したかのような感覚で、周囲を眺めることになるだろう。
ただ、その能力自体は少し勉強し、少し練習すれば誰にでもたやすく手に入るもので、貴方の周辺にもその能力を手に入れた者は多い。
むしろ、大人になれば大半の者が獲得している。
しかし、その能力は同時に用いるアイテムによって、発揮できるレベルを変化させることが出来る。そこで貴方は多少の無理をして、高額だが高性能なアイテムを入手し、それによって周囲の人間よりも強大な能力を手に入れることが出来た。
さて、こうなると人間の心理は二つに分かれる。
まず一つ目は、「手に入れた能力の強大さを自ら自覚し、その無秩序な行使を極力自制する」という心理である。「能力が周囲の人間に危害を及ぼす可能性を理解し、それを避ける」意識と言い換えてもよい。
しかしながら、ここまで読んだ大半の者は、
「そんなご立派な人間なんて、現実には殆どいないんじゃないの?」
と思っただろうし、私もそれに同意する。
よほどの自制心のある者でない限り、そんな風には考えられまい。
むしろありそうなのは二つ目の方である。
貴方は手に入れた能力の強大さに有頂天になり、それを誇示したくてたまらなくなる。あるいは、他の能力者達と一緒にいると、自分の能力の高さを無性にアピールしたくなる。
厳密に言えば、その貴方の能力の高さはアイテムの優秀さに依存しており、貴方自身には無関係であるのだが、所有者である貴方には同じことのように思えるし、それどころか自分と同じレベルの能力を手に入れることが出来るのにそうしない、あるいは貴方から見ると能力の正しい利用が出来ていないように思えるレベルの低い者が、鬱陶しくて仕方がない。
ましてや、貴方が本気で能力を発揮しようとした時、その低レベルの能力者達が邪魔になる行為をすることさえある。
そこで、いらいらした貴方はこう叫ぶことになるだろう。
「レベルの低い奴が俺の目の前でうろちょろするんじゃねぇ。邪魔だから引っ込んでろ!」
場合によっては、手で押しのけることもあるのではないか。
*
テレビの報道番組で、
「こんなに事件や事故が起きているのに、それでも『あおり運転』のする人がいるなんて、私には信じられない」
という発言を耳にすることがあるが、前述の話を理解できる方であれば、もはやそんなことは言えないだろう。
特に「さほど苦労せずに圧倒的な能力を手に入れて、それを行使して弱い相手を蹂躙する」物語に共感できる『異世界転生・チートもの』が大好きな諸氏は、容易に自分が『あおり運転加害者予備軍』となりうることや、それが別に特殊な心性ではないことをご理解頂けたのではないかと思う。
「そんなフィクションとノンフィクションを混同するようなこと、私はしないよ」
と考える人もいるかもしれない。そうかもしれないが、前述の話で「能力の使用を自ら抑える者」よりも、「その能力を有頂天で発揮する者」のほうが、より自然な存在であることに同意して頂けるのではないか。
だから、私は繰り返しこう言わなければならない。
『あおり運転』の心理は、容易に理解可能である。
むしろ、普通はそうなる者のほうが多い。
だから「そうならないためにはどうしたらよいのか」理解する必要がある。
「なんでそんなことをするのか理解できない」は、ただの思考停止である。
そんな風に思考停止する者がいる間は、『あおり運転』はなくならない。
( 終わり )
「やってらんねぇ」と叫びたくなる夜が出現する頻度の期待値を概算で求めよ。 阿井上夫 @Aiueo
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