赤い爪の女の子

@hoshinosenritsu

第1話

私の友人にH君という子がいます。

このH君の家は昔からある名家で、真偽のほどは不明ですが先祖は平将門の腹心だったと伝えられています。

そのご先祖さまの直系子孫がH君を含めた家族だそうです。

その本家とは別に分家も数多くいるそうで、日本全国に散らばっているんだとか。


その本家と分家、基本的には集まらないそうなんですが、新年の元日……つまり1/1に全部の家が集まるんだそうです。

H君の家はとても大きく、何十人も入るような和室があるのですが、そこを一つは各家の当主だけの部屋に、もう一つは当主以外の家族たちの部屋にと二つに分けます。

当主たちは部屋で何をやっているのかというと、18時になると本家の当主……H君の祖父の掛け声で円形に座り、座り終えると三つの古い木箱が運ばれてきます。それを

『かぁーごめ、かーごめ♪』

と言いながら「かごめかごめ」の歌に乗せてその箱をクリスマスのプレゼント交換の様に回すんだそうです。そして

『後ろの正面だぁーあれ♪』

で木箱を受け取った家がその箱を次の新年の元旦まで……つまり1年間保有していなければいけないんです。

普通、当たったら嬉しいものですが、当たった家は目に見えるぐらい嫌な顔をして落胆し、手放した家は目に見えるぐらい喜ぶんだそうです。

そんな変わった風習のあるH君の家、この風習は今でも続いているそうですが、H君の恐怖体験はH君が10歳の時だそうです。

その年は本家が木箱を保有することになったんだそうです。がっくりと落胆しているおじいちゃんに子供ながら好奇心旺盛のH君が聞きました。

「ね、おじいちゃん……その箱の中身なぁに?」

するとおじいちゃんは知らなくていい!と大激怒。H君はこてんぱんに殴られたそうです。

ここまでやられると尚更気になるH君。どうしようかと悩んだそうです。

そこで思いついたのが彼の親戚にあたるK君と一緒に開けるということでした。

実は彼の家系はほとんど女の子しか産まれて来ないらしく男の子の、それも同い年の子はこのK君しかいなく、しかもK君は九州から来たので元旦中には帰れず、泊まることになっていたそうです。

その他にももし見つかり、怒られたことを考え、K君のせいにすることで自分は怒られないという浅はかな考えのもと誘うことにしました。すると答えはOK。

実はK君も中身が気になっていて、でも一人で見るのが怖いからだったそうです。

そして夜も更けた12時頃、神棚に一時保管されている箱を椅子を使って取り、中を開けたそうです。

真っ暗で見えなかったんですが、何か小さいものがいっぱい入ってる。何だろうと一個取り出して見るとそれはギターのピックの様なものでした。

暗闇にも目が慣れ、よく見るとそれは人間の生爪だったそうです。しかも、爪の切れ端とかじゃなく、爪そのもの。

怖くなりすぐに蓋を閉め、元の場所に戻して寝たそうです。

その日の何時かは覚えていないと言っていましたが、夜中に寝苦しくて目が覚めると隣に寝ているK君も起きていたそうです。

しかもじっとK君自身の足元を見ているんだそうです。

釣られて見るとK君の足元にオカッパ頭の赤いスカートに赤いマニキュアをした5~6歳ぐらいの女の子が立っていました。

びっくりして、体が動けない状態だったらしいのですが、その女の子はニタァと笑いながら

「かーごめ、かーごめ♪」

と「かごめかごめ」を歌いながらK君の周りを回っているんだそうです。

怖くて目が離せず、ずっと見ていると

「後ろの正面だぁーあれ?」

と歌い終わり、元のK君の足元に着くとふっと消えました。

そのまま気を失い、朝を迎えたんだそうです。

その後K君とも疎遠になってしまいました。


そこから時が経ち、H君が18歳になった時のこと。

H君が家に帰るとそこにはK君と知らない女性が。

実はK君は大学進学のために上京しに来て、しかも隣にいたのは彼女さんだったらしいのですが、その彼女と結婚を前提で同棲するんだそうです。

H君は久しぶりに会えて大喜び、すぐに昔話に花が咲いたそうです。

するとあの時に体験した恐怖体験の話に。

話してる途中、チラッと彼女さんの方を見ると左右の指と指を擦り合わせていたそうです。

「ん?どうしたの?」

そう聞くと

「あ、ごめんなさい……その痒くて…」

と彼女さんは申し訳なさそうに顔を伏せました。

気にせずに話を続けていたそうですが、彼女さんがしきりに

「痒い……痒い痒い」

と言って指同士を擦っていました。

するとスクっと立ち上がり何処かにスタスタと歩いて行ってしまいました。

あ、しまった……そう思ったらしいのですが、しばらくすると手にペンチを持って戻ってきたそうです。

そのペンチを使って

『ベリッ…….ベリッ……』

と自分の爪を剥がし始めました。

「な、何やってるんだ!!」

驚くH君たちを差し置き、両手の爪を剥がし終わると今度は靴下を脱いで足の爪も剥がし始めたそうです。

すぐに取り押さえ、救急車を呼びました。

しかし、そのまま退院することなく、精神病院に入院することになったそうです。

その日からこの話を絶対にしないと決めたそうなんです。


その日から1年後……大学の映像サークルの部長からこんな相談をされたそうです。

「ほん怖タッチの実話ホラーを作りたい、だから何かグロくて怖い話はないか?」

最初は断っていたんですが、断りきれずに話したそうです。

するとそこから数週間後。電話がかかってきて、出てみると同じサークルの人からだったそうです。

「もしもし、Hさんですか?」

「はい、そうですが……どうされましたか?」

「実は撮影中に部長が足の指を切断する事故がありまして……申し訳ないのですが、この話はお蔵入りにさせて頂きます」

H君は絶句したそうです。


今でもH君はこの話を教えてくれた時、最後にこう言いました。

「俺さ、あの女の子に違和感を覚えているんだよね……あの赤い爪さ、今まで赤いマニキュアの赤だと思ってたんだけど……」


「爪の剥がされた後の肉の赤だったんじゃないかなって思うんだけど……気のせいかな?」


今の所、H君を始め、K君も無事だそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤い爪の女の子 @hoshinosenritsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ