森のメロディ、湖の妖精
御手紙 葉
森のメロディ、湖の妖精
僕は森の中をずっと歩き続けていた。そこには朝陽が葉の隙間から降り注いでいて、僕は目を細めながら奥にあるリンゴの木を目指してスキップを踏んでいた。
軽く鼻歌を唄って、小鳥のさえずりに調子を合わせて囁いていたが、そこでふとどこからか、聞いたことのない言葉が響いてきた。
――rohj gos miche lala
僕はびっくりしてその方向へと振り向いて足を止めたが、そこでそれが歌声だということに気付いた。その少女の声はガラスのように深みのある透き通った響きをしていて、クリスタルを打ち鳴らしたような美しさを奏でていた。
気づけばその方向へと走り始めていた。いつもそこへは足を踏み入れたことがなかったが、あまりに美しいその歌声に惹かれて、足が勝手に動いていた。
咽返るような草の匂いがする茂みを突き進んでいって、木の枝を掻き分けた時、僕が目にした光景は、幻想の中の不思議そのものだった。
そこには小さな泉があり、きらきらと輝く水面の上をなんと妖精たちが踊っていた。掌にリンゴを抱えてくるくると回りながら、妖精たちが大きな笑い声を上げて飛び回っていた。
その背中には羽根があって、それは七色に透けていた。彼女達が滑ったその軌跡には虹が掛かり、きらきらと燐光を舞わせていた。
僕は口を半開きにしたまま、その歌を聴いた。
――ここは、ファンタジア。楽しい、踊るように美しき、その一つの国。
――あなたと私が不思議の中にいるその世界。
――この胸に燃えるのは、森を輝かせる宝石箱。
――楽しさ、喜び。
――みんな弾けて、
――最高の朝を迎えるの。
妖精たちは互いに手を取り合って、くるくると回っていたが、やがてその光景が霞んで消えていった。金色の光の粉だけが宙に残り、やがてそれは泉へと吸い込まれていった。
我に返った時、そこにはただ泉が揺らぎもせず、静寂をもたらしていた。
泉の前に、一つの艶やかな赤いリンゴが落ちていた。
僕は目を見開いたまま、そっとそれに近づいて拾った。バスケットに入れ、一目散に森を走り始める。
ここは、ファンタジア。
この胸には、たくさんの宝石箱……みんな弾けて、最高の朝を迎えるんだ。
僕は笑いながら、朝を金色の輝きで瞬かせる。
森のメロディ、湖の妖精 御手紙 葉 @otegamiyo
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