最中をめぐる冒険

@ihsoy_japan

第1話 最中をめぐる冒険

気がつくと、、見知らぬ駅に立っていた。

まるで知らない街なのに、遠い記憶の中にあるような、甘い匂いの溢れる街だ。


僕はなんでここに来たんだ?

思い出せない。


いや、思い出す必要はないと考え直す。


僕は日常から逃げ出したかったんだ。

そして逃げてきた。それでいいじゃないか。


気持が決まると、楽になった。

顔を上げ、少しずつ歩を進める。


駅を背に、右にある坂をおりる。

左手に赤いタイルが敷き詰められた通りが見える。

僕はその赤に導かれるようにその通りに入る。


ここはマーケットなのか?


所々に温泉が湧いている。

手をかざす者、この国の神なのか?石像に温泉をかける者、

人々が集い、買い物をしながら笑い合っている。

平和そのものだ。


ふと、左手にお菓子の店があるのを発見する。


そういえば、駅を降りたときも甘い香りがしていたっけ。

甘い物好きの血が騒ぎ、薫りに誘われるようにお店にはいるとサザエの形のお菓子が目に入った。これをくださいと指をさすと


「はい、サザエ最中ね?」と手渡された。


最中、、これは最中なのか、、、それは僕の国にもある。

ここは日本なのか?


いてもたってもいられず、ここはどこですか?とお店の人に聞くと、

「おかしな事をいうねえ、、ここはお菓子ぃ共和国じゃないか」

と、韻を踏んだような答えが返ってきた。


ここは笑うべきなんだろうか?


自問自答したが答えがでず僕は苦笑いをしてその場を去った。


しばらく歩くと、目の前にもう一つのマーケットらしきものが現れた。

その二つのマーケットを分断するように、大きな通りがある。


この通りを右に行かなければ行けない気がする。

それは運命づけられているように感じた。


感覚に従い、僕は右に歩き始める。

そうするとまた、お菓子屋さんに巡り会った。


これは必然というものだろう。迷わず入る。

そしてそれが間違い無いと感じる。


僕は猪の形の最中を目にした。


「すみません、この猪の形の最中をください!」

女性店主にそういって声をかける。


運命に導かれ来た場所に最中が売っている。

そうだ、僕は多分このためにこの街に来たんだ。


急に目の前が開ける感じがした。


先ほど目にしたもう一つのマーケットまで戻り歩きづつける。

ここは道が黄色だ。


この『お菓子ぃ共和国』という国は道に色をつけるのが流行っているのか?

そんなことを考えながら歩いていると、左手にまたお菓子屋さんがあった


すぐさま店にはいる。

ここは丸型の最中が売っていた。


「汐吹き最中ですね、ありがとうございます」

やはり女性の店主らしき人が丁寧な接客で最中を渡してくれた。


これで3種類の形が揃った。

僕はもうこの最中のとりこになってしまった。


普段だったら絶対しないのに、街行く人を捕まえ、


「すみません、変わった形の最中を売っているお店をご存知ないですか?」


と声をかけた。


声をかけられたほうは、怪訝そうな顔をしながら、

「最中、、最中ねえ、、、、ああ、ここからちょっと歩きますけど、変わった最中がありますよ」


「本当ですか?ありがとうございます!」

自分でもビックリするぐらい普段出したことのないような明るい声をだしてお礼をいった。


ちょっとぐらい遠いのがなんだ。僕は最中に魅了されていた。


丁寧に地図を書いてもらい、そのお店に向かって歩く。


10分ぐらい歩いただろうか、、、途中、右手に学校のようなものがあった。

大分先ほどのマーケットからは離れた場所だ。


お店に到達するとガラス越しに最中が目に入る


ーーー鮎の形だ。


興奮が体の中を駆け抜けるのを感じる。


しかし、冷静になって周りを見渡すと見目麗しい綺麗なケーキが売っている。

ここは洋菓子店ではないのか?


店の中に入り

「すみません、これは最中ですよね?」

と、体の大きいコック帽を被ったシェフに声をかけると


体に似合わない優しい声で、


「えっと、、最中なんですけど、中はチョコレートなんですが大丈夫でしょうか?」

と聞き返してきた。


なるほど、そういうことか、、


もちろんです!と答え、購入し、そしてここでも面白い形の最中はないかを来てみた


「最中ですか、、、ちょっと歩きますが、天狗の形の最中がありますけど、、」


天狗?天狗は日本古来のもののはずだ。

でもここは『お菓子ぃ共和国』。日本じゃないのに、、どういうことだ、、、


混乱する頭を抱えながらも、最中の魅力に取り憑かれた僕はそんなことはどうでもいいとばかりに、ありがとうございましたといい、その店まで走る。


店の近くまでくると、人通りが少ない。かつてはここも賑やかなマーケットだったんだろう。


その名残りらしきものがいくつも目に入る。

お店につくとすぐ最中が目に入る


これは、、、天狗だ、、、、、


大きな鼻、茶色とピンク、2色並んでいる。


「これは日本の天狗ですよね?」

と、細身の店主に聞くと、


「うん、そうだけど、、、お客さん、日本の人じゃないの?」


という、答えが返ってきた。


「えっ、、いや、日本人ですけど、、、あれっ?ここは『お菓子ぃ共和国』じゃないんですか?だって、最初のお店でここはどこですか?って聞いたら『お菓子ぃ共和国』ですって、、、」


そういうと店主は『ワッハッハ』と笑いながら、


「そうだ、加盟店はそう言わなければいけないんだっけ、、確かにここは『お菓子ぃ共和国』です。


でも、日本の天狗ですね?って、、ごめんなさい、入り込んでいるところの世界観を壊しちゃって、、、」


笑いがとまらない店主の横で、急に全てが現実になる。僕は自分を取り戻した。


ここは日本でもあるというか、本当は日本でしかない。

『お菓子ぃ共和国』は存在しない。

現実逃避したい気持が強くて、僕が夢うつつの中で紛れ込んだお菓子の国は、この街が、人口1000人あたりのお菓子屋さんの数が日本随一ということから、それを全国に発信するために建国されたもちろん架空の国。


現実の世界に引き戻された僕は駅に戻る。

伊東駅と書いてある看板が夕焼けに映えていた。


「そうだ伊豆にきたんだっけ、、、、」


足早に帰りを急ぐ人の群れのなかで、手にした袋の中にある5種類の形の最中を眺めると、えも言えぬ高揚感が溢れる。


「明日からまた仕事だ。帰らなきゃ。」


この最中達は会社へのお土産にしよう。きっとみんなにうけるぞ。

一瞬味わった夢の世界での冒険は、明日からまたがんばれる気持をくれた。


ーーここに出てきた最中は全部本当にあります。ーーーーー



■さざえの形の最中

一進堂


https://goo.gl/maps/MzWs2yfKiiu


■猪の形の最中

文寿堂


https://goo.gl/maps/1PMnyY1pTRo


■汐吹き最中

紅屋


https://goo.gl/maps/uLB8uRKWxA82


■鮎の形の最中

甘青堂


https://goo.gl/maps/Q1Biic7QEtt


■天狗の形の最中

玉屋


https://goo.gl/maps/VmS4iQKsfJo


^^^^^^^^^


この物語にあるとおり、伊東市は『お菓子ぃ共和国』と言う国を内包しています。


『伊豆・伊東お菓子ぃ共和国』とは、伊豆の伊東市は人口1000人あたりのお菓子屋さんの数が日本随一ということから、「伊東はお菓子の街」であることを全国に発信するために建国されたもちろん架空の国です。


https://www.facebook.com/ito.okashii.kyowakoku/?fref=ts


『伊豆・伊東お菓子ぃ共和国』の楽しみ方を知ってもらおうと書きました。

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