第17話 ネオの事故3

 ──ホワイトワールド PTA本部


 「ひゃあ!」ヒアリングをしていたスタッフが悲鳴を上げた。長峰が突然消えてしまったのだ。周りのスタッフは驚いて固まっている。高階が叫んだ。

「チェイサー、確認してください! 長峰さんのID分かりますよね」

 スタッフがチェイサーの前に集まった。長峰のセンサーのIDを入れる。スクリーンにブレーンが現れた。イエローワールドだ。高階がスクリーンをタップすると地図が現れた。東中野に赤い点滅がある。もう一度タップするとストリートビューが現れた。小さなアパートの映像だ。

「ユキノさん、イエローワールド、行けますか!?」

 高階はユキノを見つけ、強い口調で声を飛ばした。

「もちろん」

 ユキノが駆け寄ってくる。

「これ持っていってください」

 高階は小さなタブレットをユキノに渡した。

「小型チェイサーです。向こうに行ったら起動してください。長峰さんのセンサーIDを入れれば見つけられます」

「了解」

 ユキノは首にかけていたトリアンを耳にセットし、小さくタップした。

 ヒュンと音がしてユキノが翔んだ。



 ──イエローワールド 東中野


 ユキノは東中野の小さなアパートの前に翔んで来ていた。タブレットを起動する。地図が現れた。長峰のIDを入れると、アパートの位置に点滅があった。

「ここにいるって訳ね」

 アパートの一階にある郵便受けを確認すると、二〇三号室の表札に『長峰ユリ』の名前があった。

「自宅?」

 外階段を上がり、二階の二〇三号室をノックした。

「長峰さん、私です。ユキノです」

 部屋の中からガタッと音がして、すぐにドアが開いた。中から泣きそうな顔の長峰が出てきた。

「どうなってるの? 私、どうなっちゃったの? 何で家にいるの? 疲れたから家に帰りたいって思ったら、そしたらここにいたの」

 長峰は泣き出し、ユキノの胸に倒れこんだ。

「大丈夫。大丈夫よ」

 ユキノは長峰をギュッと抱きながら、高次元通信機能の入ったスマホを取り出し、高階に連絡した。

「こちらユキノ。長峰さん、見つけたわ。自宅にいた。もう大丈夫よ」

『良かった。長峰さんをこっちに連れ帰ってきてください。このままだと、またどこかに翔んでしまうかも知れないですから』

「分かった。連れて帰るわ」



 ──ホワイトワールド PTA本部


「今は鎮静剤で眠ってます。でも安心はできません。寝ていても何かのきっかけでトリップすることはありますから」

 スタッフが高階にそう言って病室を出て行った。病室には高階とショウ、リキ、ユキノがいた。

「トリッパーの能力が覚醒してしまった以上、このままほっとく訳には行かないですよね。リキさん、長峰さんにトリッパーのトレーニングをして欲しいんですけど。力を安定させないと危ないです」

「それはいいけど。男嫌いなんだろ。俺でいいのか」

「トレーナーとしてはリキさんが一番です。でも……そうですよね。ユキノさんも一緒にお願いします」

「了解。分かったわ」


 高階はさっきの出来事に興奮していた。何の能力も持っていなかった普通の人が、ネオで覚醒して、すぐに能力を発動したのだ。ほんの十数人の実験で二人も覚醒している。ネオは輸送装置としては危険すぎるが、トリッパー覚醒装置として見た方がいいのかも知れない。高階の科学者としての気質に火がついていた。

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