ちちぶくろにゆめいっぱい

「あ〜、またこの手のツイートだわ。ほんとやになっちゃうよね」


 僕はネームチェックをヒロ君にさせている間に、携帯を弄っていた。

「なぁ、ここ二人の配置、前のコマと逆転してないか? って、何見てんだよ山田君」

「男性向け漫画のヒロインは乳が重力に反してるって話」

「何? 確かに俺は乳首を上向きに反らせたりするがね」

「いや、もっと全体的な話だよ」


 巨乳キャラがTシャツとか着るときの話をしてみた。

「例えばヒロ君が顔から布をかぶってみるとするじゃんか」

「もごっ、白い布は冗談でもやめろ!」

 ヒロ君の高い鼻梁にかかった布は、そこから地面に向けて垂直に垂れ下がるわけである。

「これが現実だとすると……漫画はこうだ!」


 垂れ下がった布の端を、僕はヒロ君の顎に無理やり持っていった。めっちゃ顔のラインでてるよ。まるで犬神家ですね。

「つまり、乳突起物から下の布は本来なら重力で下に垂れ下がるはずなのに、まるで布が乳を包むように重力に反して乳の下側に接触しているのだ。これが乳袋現象なのだ」


 世の中の一部からはこの描写をリアルでないと批判するものもいるらしい。今僕が見ているこのアカウントのようにね。

「つまり、リアルでないと……?」

 ヒロ君は白い布を広げてパソコンにかぶせた。そこがあるべき場所だった。

「顔、ホコリですごいよ?」

「いや、お前のせいだわ」


「まぁ、とにかく。僕から言わせてもらうと、そもそも漫画にリアルな重力を求めてる時点でいかんっすよというわけです」

 アニメの世界にも鉄壁スカートなんてものがありますが、もしあれが鉄壁じゃなかったら、それこそ目も当てられませんからね。

「言うなれば、乳袋は夢なのだ! 通称童貞を殺す服と共に生み出された、童貞の夢なのだ!」

「乳袋は夢……だと?」

「そう、夢!」

 僕はヒロ君のパソコンから彼が製作したデジタルイラストを開いた。


 現れる美少女。

 ちな、彼もまた乳袋職人である。

「うぉぉぉっ!」

「あっ、山田君! 俺の作品に一体何を……」

 ラスターレイヤー、ベクターレイヤーを作成。

 ベクターレイヤーで美少女の胸部に新しい線画を作成。ラスターレイヤーで水彩モードを作成し、スキン用のカラーパレットで塗り!

 ctrl+sで保存!

 ここまで32秒。

「ゼェ、ゼェ……ハァ、ハァ」

「……」

「このように、剥ぎコラが一瞬で作れます!」


「……しばくで?」


 

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山田君のスケベ論 うらぐちあきら @akirauraguti

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