とある女の独白。
『とある女の独白』
真っ白な空虚の世界、その真ん中に死に眠る果実のように彼女はいる。
ここは狭間の世界。生者も死者も関係ない、偽りの大地。
今日も、次の日も。そのまた、次の日も。彼女は待ち続ける。来ることのない想い人を待って。
誰が聴くこともない
脳裏にかつての記憶を幾度となく再生して、彼女は待ち続ける。
あれからしばらくして、私は息子を生みました。
息子はこれといって病気や怪我もなくすくすくと育ってくれました。聞き分けのよく母思いで、少しこそばゆいですが頼りになります。
でも、私は彼に謝らなくてはいけません。
私はもう永くありませんでした。
これからすることは誰のためにもならない。そう、自身が自覚しています。
ストーカーでした。常に誰かに見られているような視線を感じる。警察に相談もしました。けれど実被害の出ていない現状ではどうしようもないと断られました。
このままではエスカレートする一方だ。最悪、家を突き止められる可能性もある。私の聖域を、私のせいで汚すわけにはいかない。
あの子に迷惑はかけられない。だから、もう、こうするしかない。
太く乾いた縄が、落ちてしまわないように固定する。二、三度たしかめてきつく締める。
必要なことは書き残した。これで、やるべきことは終わった。
ああ、願うならばせめて、あの子が育つ姿をともに見届けてあげたかった。
でもわたしには守らなくてはならないものがある。自身が生涯独身を貫いてきた理由など容易い。
結局私は、あの人を忘れられなかったのだ。
どんなに裏切られても、どんなに時が流れても。それは変わらない。彼には彼の痛みがある。
わたしは母である前に女です。
アレがもし、私の純潔を奪うのならば。私はその前に。
「――ごめんね」
唯一の家族と過ごしたこの場所で、脚を蹴る。
ゆっくりと首に巻きつけ、静止させる。まだ乾いていないシャンプーの香りに、
そうして女はそのあまりにも若すぎる年齢で、自らの生涯に終止符を打った。
だから彼女はここにいる。
今日も、次の日も。そのまた、次の日も。彼女はここにいる。来ることのない想い人を待って。
彼女は知らないのだ。この世界のルールを。
ここに訪れることが出来るのは、強い執念に駆られたもののみ。それ以外の人間は、跡形もなく消え去る。
彼女はそれをしらない。
あの男は持つべき想いすら届かない人間だ。それなのに、彼女は待ち続ける。胸の内に抱えるこの乾きをあの人なら潤せる。
かじかんだ指先を彼なら温めてくれる。そう信じて。
これはとある女の物語です。愛に餓え、愛に溺れた女の、悲しい哀しい物語です。
ねえ、まだなの? 待ちきれないの、私。
華奢な脚を白幻の世界に曝して、軽やかに踊る。
早く、早く早く早く早く早く早く早く早く―――早く、こないかなァ。
雨が降る、 名▓し @nezumico
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