第37話 神々にのみ許された誓い







 目覚めてごらん、という声に目が開くと変わらず細部を掴むことができない創世神様がいらっしゃった。


「……創世神様……」

「そなたはこれで、永くアルヴァと同じ時を過ごすことが出来る。――アルヴァが待っている、行ってあげなさい」


 目覚めたばかりで頭がどこかぼんやりしていた頭はそれだけではっきりとし、私は示された方へ走っていく。

 創世神様に連れられて、アルヴァ様がいない別の場所に行っていたようだから、私は廊下ではない境目が見えない場所を走って走って――アルヴァ様を見つけた。


「アルヴァ様――」


 彼の元へ辿り着く前に、ここまでどうにか無事に来た足がもつれてしまったけれど。


「お前は、落ち着きがないな」


 地面に張り付く前に、受け止められた。

 そのまま、見上げる間もなく顔を確かめなくとも誰のものと分かる腕で、身体全体で強く抱き締められる。

 頬が押しつけられて、私も全体で温もりを感じる。


「帰るか」

「はい」

 

 そなたたちのこれからに祝福を。という創世神様の声がどこからともなく聞こえた。





 アルヴァ様と神殿に帰ってきて、降り立った庭を歩く。


「この庭もまた作り直していきますけど、希望はありますか?」

「シエラの好きなようにすればいい」

「全面ピンクにしてしまいますよ?」

「お前が望むなら、俺はそれでいい」


 庭は全て殺風景。

 またこれから庭作りを始める。

 次はどんな風にしよう。今度はアルヴァ様にも手伝ってもらったりしようかなんて密かに計画を立ててみる。


(これから、かぁ)


「どうした?」


 手を上げた私に、不思議そうにするアルヴァ様。

 どれほどの時間をかけてそうなったのかは聞かず終いで分からない。

 とにかく私は、創世神様により、純粋な人ではなくなった。神様でもなく、人間と神様の間の存在みたいなもの。人間にある寿命というものを超越し、手酷い怪我を負って死に至らない限りは神々と同じ時を生きられる。


「実感が湧かないです」


 髪の色も目の色も顔かたち何も変わっていない。意味もなく、手を上に翳して見てみるけど、やはり意味は出てこない。


「私は、本当にアルヴァ様と一緒に長く生きていけるようになったんでしょうか? いえ、創世神様を疑っているわけじゃないですよ。ただ、実感がなくて」

「そんなものこれから湧いてくるだろう」

「どんな風に?」

「俺は元々神なのに知るはずがない」


 それはそうだ。

 しかし、下げた手をしげしげと見つめても、変化は見つからないのでどうしたものか。


「ずっと俺と過ごしていれば、いつの間にか過ぎた歳月で実感するのかもな」


 言葉にぱっと視線を上げるとアルヴァ様は微笑んでいた。

 アルヴァ様がそう言うことで、実感が湧かない私の心の具合は簡単に晴れ渡る。

 ずっと、アルヴァ様と過ごしていれば。その言葉が嬉しくて、そうかと思って、笑顔が浮かぶ。


「あっという間でしょうね、アルヴァ様といるなら」


 この景色も整えてしまえばそれからは中々変わらず、姿も変わらないのはまだ想像できないけれど、過ぎていく歳月にはアルヴァ様がいる。彼と一緒だ。

 それだけで、私は幸せだと思うから。


 笑いかけ、言うと、アルヴァ様が立ち止まった。


「アルヴァ様?」


 続いて足を止めると、


「シエラ」


 名前を呼ばれ腰を抱き寄せられて、近づき、私の心臓の鼓動が高まる。

 名前を呼ばれること、彼が側にいると実感出来ること、心臓が打つにつれ好きだなと思って。


「アルヴァ様、大好きです」

「――先に言うか?」


 気がついたら声に出していて、呆れたようにされた。

 しかしそれもつかの間。

 アルヴァ様が腰を抱く力を強め、距離が本当に無くなる。身体が密着し、顔が間近に迫る。顎を掬い上げられ甘く濃く視線が絡み合い、熱を孕んだ息を感じ、唇が重なる直前。


「お前を愛している。これからも、愛する」


 囁き、柔らかく、熱く、唇が重なった。


「永久に」


 離れた唇が紡いだそれは、永遠の時を得る神々にしか許されぬ誓いの言葉。

 倍にして返されたそれに私が泣き笑いすると、アルヴァ様は笑って瞼に口づけを落とした。






 同じ時を過ごす存在となった二人は、地上を見守り、永く永く共に過ごしていく。それからの世、地上に無用な争いは生まれなかったという。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

戦神の求めた唯一 久浪 @007abc

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ