第3話 機巧魔術学園入学式Ⅱ 麒麟サイド

 とりあえず、ホールを出て裏に連れて行く。まだ式が始まるまでは時間がある。尋問や口止めが必要だ。


「おい、何で俺の事知ってるんだ?」

「え、だって昨日の事件で活躍してたから……」

「お前、昨日魔術事件の野次馬かよ。……なるほど、お前は機巧魔術師候補生か。遠見の魔術と音拾いの魔術を使ったのか。っち、学生には確かに規定の魔術条例はまだ働かないが、面倒な事になった」


 計算外だ。昨日は軍部から急行せよ、と命令が来たしちょうどこの学園の男子寮に荷物を置きに行くところだったのだ。まあこの学園はそれなりに現場とも近かったし、野次馬がいてもおかしくはないのだが。だが、学園の生徒でそれもここまでする野次馬がいるとは思わなかった。


「お前、いや、君名前は?」

「鳳白雪です。あなたは黒羽麒麟さん、ですよね?」


 鳳白雪は茶髪の柔らかそうな髪を持つ凛とした顔ながらもなんというか、怯えているような雰囲気の美少女と形容されるべきな少女だ。


「鳳、機巧魔術師で、か。……まあいい、そうだ。俺は黒羽麒麟だ。だが、それ以外のことは忘れろ。というかどこまで知っているんだ?」


 ここも重要だ。もし、さっき言っていたこと以外にも知っているようだとまずい。敵対組織にこいつが尋問にあったときに余計な事が洩れる。


「えっと、あなたが言っていたことですから、国防軍所属ということと、三等錬金術師ということは記憶に新しいので覚えております」


 まあそのくらいなら大丈夫だろう。口止めの必要はあるが、尋問せずともそのくらいなら捕まれるだろうしな。それより、


「鳳白雪さん、もうその喋り方はやめて構わないぞ。悪かったな、こっちの都合で。小夜御コヨミ、済んだだろう?」

「はい、キリン。終わったのですよ。それよりも入学式から雌狐といるつもり、なんですか?」」

「うわっ?!」


 鳳の後ろに怒気を放った黒髪の美少女が降り立つ。まさに、完成されたような幼さの残る美貌を持つ少女だ。鳳は彼女に気づかなかったようだ。まあ。それで気づかれたほうが厄介だ。


「ヨミ、驚かせたりしたら悪いだろうが。常識的に考えてくれ」

「だって、キリンが他の女に色目使うから~」


 いやいや、どう見ても尋問だったんだけど。俺と鳳は同じ目をしていたと思う。案外話の分かるやつかもしれない。


「あ、あの済んだってどういう意味ですか?」

「キリンとヨミの夜の準備が済んだということですっよーだ!」

「お前少し黙れ。いやさ、君がさっき俺の名前をホールで言ったろ? あそこからここまで来るまでにちょっとつけてくる外国人さんが居てな。ヨミに始末させた」

「始末って……?」

「ん? 海外の密偵の可能性を考慮して軍の支部に引き渡しに行かせただけだけど」


 さきほどからつけてきているやつが居る事は分かっていたのでヨミに調べさせた。そして入学式からこちらに潜入するつもりだった海外の学生密偵という事が分かったので突き出してきたのだ。

 

「なあ、俺が軍の人間だと言うことを忘れろ、なんて無茶は言わない。だけど、他の奴等には言うな。もし、情報を漏らすなら君を始末しなきゃいけなくなる。わかったな?」

「は、はい。あの、それって口止めってことですよね。なら、口止め料ということでいいのであなたについて教えてもらっていいですか? それと軍のことをお願いします」


 軍に興味を持つものはそこまで多くないのだが、この少女は少数派のほうの人間のようだ。まあ彼女の苗字が鳳でなければスパイの可能性を疑っていたが、まあ少しくらいなら構わないだろう。


「いいぜ」

「よろしいのですかキリン?」

「ああ。一般知識に少し足したくらいしか教えない。まあそれなりの軍オタなら知っている域だよ。まあ俺のことから始めようか。俺は日本国防軍機甲師団機巧執行部隊配属の三等錬金術師で、軍の階級は中尉だ。執行官だけじゃなく調査官として動いたりもする。機甲師団は日本の最大戦力だからまあ知ってるだろ。機巧執行部は知っているか?」

「はい。機巧魔術師や一般魔術師、錬金術師の違反行為を公安局と連携しながら対処し、犯罪事件や犯罪者を執行する、ですよね?」


 鳳の言っていることは教科書にでも出てきそうな説明だった。だが、少し抜けているかもしれない。


「そうだ。俺たち機巧執行部は軍の猟犬だよ。だけどね、鳳さん、君の説明は俺たちのってところしか指してない。なら、機巧って何だ?」

「え、機巧魔術師の部隊、ってことですか?」

「……俺は錬金術師で登録されてるんだけど。まあいいや、俺たちの機巧っていうのは、執行官全員に確実に当てはまる要素だ。俺たちは一人では基本動かない。パートナーと動く。それは人間じゃない。今年から学園でも授業正式導入される機巧人形メカニカルドールだ。そこにいるヨミみたいな奴等だ」

「え?! 機巧人形、なんですか?」

「はい。小夜御は機巧人形、キリンのお人形さんです。それはベッドでも変わりません」

「痴女かお前は。鳳の顔が赤くなってるからやめてくれ」


 小夜御は機巧人形だ。精密に生み出された魔力や魔術を用いることで動く人形だ。この人形たちの採用テストを兼ねて長年執行官は人形と共にいる。それが機巧執行部の由縁だ。だが、そこで昨日の現場を見たなら疑問が残るだろう。


「でも、黒羽さんには魔力がないんじゃないんですか?」

「俺の魔力はちゃんとあるぞ。小夜御の心臓にな。そもそも、魔力がない人間なんて存在しないだろ。探知できないくらいに微弱な奴等はいるだろうけど。お、そろそろ入学式だ。いくぞ、ヨミ。鳳さんも早く!」


 少し答えをはぐらかしてしまったが、まあ仕方ないだろ。一応まだ国家機密だ。それに、久しぶりにあいつらにも会っておきたいしな。

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錬金術師と聖夜の晩餐会 澄ヶ峰空 @tsuchidaaozora

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