第2話 機巧魔術学園入学式Ⅰ 麒麟サイド

 現在、世界には大きな二つの学問がある。魔術と錬金術だ。日本ではどちらの学問が主流か、その答えは魔術だ。日本は世界有数の魔術国家として世界に名を馳せている。現に、日本の魔術師と認定されたものの人口は学生を含め四割にもなる。

 錬金術や魔術は生まれたのはかなり昔だが、ここまで一般社会の常識となったのはヨハネの黙示録の影響だ。実際に、世界は一度死んだ。西暦二千三十年に。現在は西暦二千百三十年。だが、破滅前の世界とそこまっで現在は差はない。二千年以上かけて作られた歴史が百年で戻るというのだからすごい。その偉業を成し遂げる中心になったのが活動を始めた錬金術師と魔術師だ。こうして現代の二つの技術による社会は作られた。

 科学を究極的に突き詰め人知を常に引き伸ばしていく錬金術と、悪魔の力を使って世界に奇跡をもたらす魔術。このふたつの学問があったからって世界が元通りになったわけじゃない。世界には黙示録の獣と四騎士、ラッパを持つ天使が徘徊するようになったのだから。

 だが、その脅威も終焉に向かっているのだろう。機巧魔術師と機甲神獣が生み出されてからだ。魔術師のなかに錬金術の要素を取り入れるものが現れ、英国で初めて実戦レベルまで使えるようになった機体が機甲神獣だ。機甲という点は国家二等以上の錬金術師たちの手によって生み出され、神獣という点は英国など、ヨーロッパなどの神話の神獣をモチーフにしたことから来ている。日本は英国の次に実用化に成功し、以後、たくさんの機種を作り出している。軍事戦力としても機甲師団は世界クラスだ。機甲神獣は魔術師の魔力と専門技術を用いて乗りこなされ、その魔術師が機巧魔術師だ。機巧魔術師には魔術の心得も、錬金術の知識も、乗りこなす機体の動きを理解し、対応する身体能力も必要になってくる。まさに全てを兼ね備えたものしか乗れないということだ。

 今俺はその機甲魔術師を初め、魔術師、錬金術師を育成する学園の前に立っている。といっても、この学園は魔術師候補生の新入生が全国から二千人、機巧魔術師候補生が千人、錬金術師候補生が五百人が入学する学園の前にいる。全国からかき集めてこれだけだ。まあ、全国と言ってもまだ破滅後から取り戻せていない土地は多い。それを考えたら妥当な人数だろうか。

 門をくぐりそのまま歩き出す。左手にある大型ホールに向か。市民体育館くらいはありそうだ。今日はここで入学式がある。俺はこの学園、機巧魔術学園の新入生だ。まあ軍の錬金術師であり、執行部に身を置いている猟犬でもあるのだが。この学校には同盟国の英国の機巧魔術師の留学生が二割を占めるといわれている。その留学生に軍の犬がいるかもしれないから監視と同時に馬鹿なことをするようだったら噛み殺せ、とのことだ。今は軍しか見の置き場がないので上手くやるしかないだろう。まあ錬金術師でありながら機巧魔術に挑むというのはいささか矛盾を抱えているかもしれないが。ホールに入る。


「黒羽麒麟?! 国防軍の錬金術師がなんでここに?」

「……黙れ。ちょっと来い」


 なんでだ? 何故俺の名前を、軍のことを知っているやつがいるんだ? くそ、あまり声は大きくなかったけど、まわりの奴等がこの事実を知らなければいいのだが。

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