第4話 探索、遭遇しました

私は依頼を受け、早速キールの森に来ていた。


「ふぅ、やっぱり落ち着くわねこの森は。駆け出しだった頃と全然変わって無いなぁ」


私がまだランクDのど素人だった頃は、よくこの森の魔物を狩りに来たり、採集に来たりしていた。その時と変わらない様子の森を見て、ちょっと感傷的になってしまった。


「さて、グランド・トレントは…」


キールの森の管理者であるグランド・トレントは普段は森の最奥である光精の樹海にいるが、この時期になるとキールの森全体を徘徊し始める。徘徊中のグランド・トレントは凶暴化しており、通常はランクC+だがランクB相当の魔物になり、危険なので討伐依頼が出るのだ。


その凶暴化している理由としては、自分に実った実を守るためであり、他に実を付けている仲間を守るため徘徊し、凶暴化していると考えられている。それと凶暴化の作用なのか、身体全体が堅くなり、日用品や武器に使えるような木材にもなるのだ。


私の今回の目的は、グランド・トレントの実なので別に本体を倒さなくてもいいのだが、討伐依頼を受けているため、どうあっても倒さなければならない。


「ん〜、いつも思うけど実だけ持って帰って依頼完了!じゃ駄目なのかな?実を取れば普通の状態に戻るのに」


実際にはフィーネしか知らない方法なので、ギルドが採取依頼など出すはずがないのだが、そんなことを彼女は知る由も無い。そもそも知ったところで、凶暴化した個体の身体は資源にもなるため、討伐依頼が減るはずなどないのである。


ふと、フィーネは足を止めた。


「………」


(おかしい、さっきから魔物どころか生物の気配さえ感じない)


まるで森が死んでしまったかのような静けさの中、ある一点から感じられる高濃度の魔力に視線を向ける。


(多分、この魔力を持ってる奴が原因…、でもなんでキールの森に?この森に何かがあるの?)


魔力の発している方へ少しずつ近づいていく。足を踏み出し前に進むにつれ、肌を伝う魔力の刺激がピリピリと強くなってくる。


(確実にAランク以上の魔物がいる!一体何ッッッッ⁈)


目の前の光景が信じられなかった。


「嘘……でしょ…………」


グランド・トレントの死体が辺り一面に散らばっていた。しかもただのグランド・トレントではなく、エルダー・グランド・トレントと呼ばれる数十年生きた特異個体であり、そう簡単に倒せるような魔物では無い。何しろA-ランクの魔物である、この森の中に倒せるような個体が存在している訳がない。


だから、そこにいた魔物モノも在来の魔物の筈が無かった。


「……グラス・ゲイザー…!!!」


巨大な目玉に蔦が絡みついた様な異形がそこにはいた。


ゲイザーという種類の魔物は、大体が目玉に触手が生えた様な見た目で、常に魔力を放出して空中に浮かんでいる。その為、全ての個体がAランク以上の魔物という上位種族なのだが、普段はこの大陸の西側にある『魔窟の荒野』から出てこない為、こちらから行かなければ遭遇する筈がない。


私は後ろへと下がり、まだこちらに気付いていない様子のグラス・ゲイザーから逃げ出せる様に体勢を整えた。


(私だけじゃAAランクのアイツに敵わない…、ギルドで討伐隊を編成しないと)


ジリジリと周囲に警戒しながら後退していたのだが、


パキィ……


足元の小枝に気付かず踏み砕いてしまった。


「しまっ…!!」


起こってしまったことは覆せない。グラス・ゲイザーは今の音でこちらに気付き、蔦の様な触手をくねらせながら、大きな目を見開き戦闘態勢に入る。


(やるしかないの?……いや、やらなきゃ、殺られる!)


私は覚悟を決め、愛剣を腰に下げた鞘から抜き放った。抜き身の剣は薄暗い森の中でも僅かな光を反射し、私を奮い立たせてくれた。


「gaaaaaaaaaaaaーーーーーー」


グラス・ゲイザーの魔力を乗せた咆哮が辺りに響く。咆哮を終えるが早いか、地面に沿って触手を勢いよく私の方へ伸ばして来た。


「…ッアア!!!」


触手を回避し、気合いと共にグラス・ゲイザーに剣を振り下ろす。だが、スルリと躱され腹に一撃を入れられた。


「グッッッ…ァハァッッ!!」


かなりの速度で吹き飛ばされ、木にぶつかった。腹と背中に激痛が走り、肺の空気が一気に吐き出される。


「ッ、[我に、戦意あれ]…」


気を失いかけたが、無理矢理息を吸い込み気つけの魔法『失意活性フォース・メンタル』の起動式を唱える。朦朧としていた意識が鮮明になり、目の前に迫っていた触手の二撃目を間一髪避けることが出来た。


「guuuuuuuuuaa……」


避けられたことに苛立ったのか、触手をくねらせながら低く唸り私を睨み付けた。だがそれも一瞬のこと、すぐに私を叩き潰そうと触手を伸ばしてきた。今度は避けられないように四本の触手を分散させて、私の逃げ場を無くしてきた。


「舐めるな、[加速、更に先に、その彼方に]、[湧き上がれ、驚嘆すべき力よ、尋常ならざる力よ]!」


速度上昇の魔法『身体加速アクセル』と筋力上昇の魔法『力を我にパワード・オン』を起動させ、一時的に人外の力を手に入れる。粘着くような時間の拘束から抜け出し、一瞬のうちに包囲しかかっていた触手を切り刻んだ。


「gaaaaaaaauuuaaaaaaa!!」


触手を斬られたことに憤っているのか、または痛みによる叫びなのかはわからないが、私は何故かなんとなく手ごたえを感じた。


(これならいけるかもしれない!)


未だにビチビチと動いている斬り飛ばした触手を見て、改めて自分がやったことだと自覚できた。剣を強く握り込み、高揚した気分のまま斬りかかろうとグラス・ゲイザーに向き合った。


が……


「え………う、そ………」


絶望が待っていた。

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転生したけどアンデット-死んだまま異世界生活- 宵闇崎タケル @Tloea

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