ボロボロの靴

紫ヶ楽

第1話

僕の靴はボロボロだ。

とは言え、本当に破れていたり泥がはねて汚れたりしているわけじゃない。

僕はとても緊張に弱く、ちょっとした場面でも決断に迫られると一歩も動けなくなり、靴が地面に縫いつけられているように錯覚するからだ。

バカでかい釘が何本もぶち込まれていると言ってもいい。

そのことを彼女に言うと、「何言ってんの」と笑って一蹴された。

「そんなんじゃ、アンタの足も血まみれよ」

そう言って僕の話を錯覚だと裏付けた。僕を何度も救ってきた強気の笑顔だった。

そんな彼女に、今僕は別れを切り出されている。

「……前から感じてたと思うけど、私たち価値観が合わないのよ…」

彼女はひどく悲しそうに俯いている。

僕はいいバランスだと思ってたよ。

「………………」

足は一歩も動かない。

今日も僕の靴はボロボロだ。

靴には大きな穴がいくつも空いている。もはや履き物としての形態を成せず史上最高に崩れている。

だが、錯覚のはずだ。彼女がそう言っていた。

(……………あ…)

否、錯覚だった。今までは。

足に違和感を覚え、頭を真下に向けると、僕の足は血に濡れて赤く染められ、さながらドット柄の靴下のように靴と同様、真っ黒の大きな穴がいくつも空いているのが見えた。

痛みはない。

でも、声が出ない。

足を踏み出せない。

彼女は俯いている。

これはもう…、錯覚じゃないよね?

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ボロボロの靴 紫ヶ楽 @komekopan

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