アエテルタニス三代噺『火災』

天蛍のえる

家なき……

ある春の日、うららかな陽気に誘われて領地を散策に出掛けた日の午後。


心地よい疲労感に包まれながら帰ってきた我が家は夕日の様に輝いて……


燃えていた


「オレの家がー!!」


先代の遺した悪趣味極まりない装飾の数々を剥ぎ取り、外観に反して劣悪にも程がある設備に手を加え、やっと暮らせる環境にまで整えた我が家が……燃えている!!


「しょっ、消火だ!火を消すには水ッ!水の魔法!」


慌てて紡いだ術は、しかし十全に作用して水流を生み出し炎を呑み込んだ……


燃え盛る家を丸ごと


炎に巻かれ脆くなっていた外壁は勢いよく放たれた水流により容易く崩れ、砕けた破片は流れのままに流されて行き、瞬く間に火は鎮火して、家は跡形も無くなってしまった。


「オ……オレの、家が……」


「何が『オレの家が』だ!」


まばゆい鎧を纏い、神秘の力に満ちた剣を携えた男が一人、こちらを睨み付けるように見ていた


「お、お前はいったい……」


「それはこちらの台詞だ、貴様いったい今まで何をしていた!」


咎めるような視線を受け思わず正直な言葉を返してしまう


「お散歩?」


「散歩?散歩だと?魔王である貴様が!?魔王なら玉座で勇者の到来を待たんか!我輩の計略が台無しではないか!」


「計略?」


意図の見えない言葉に首を捻る


「そうだ!魔王と正面から戦っても勝てはせん。だからこうやって火災に見せ掛けた炎の魔法で焼き殺そうという寸法であったのに……


魔王が陽気に誘われて散歩とかするんじゃない!」


「ひ、人の勝手だろう!……というか、オマエが火を付けたんだな?」


言葉に些かの殺気を込める、しかし眼前の男は欠片も気にした様子もなく愉快そうに笑う


「如何にも、我輩こそは炎の勇者マッツオ!いずれ全ての魔王を焼き殺す男の名よ!」


魔王は勇者の剣でしかトドメを刺すことは出来ない、しかしその勇者の剣が炎を生む力を持っていたら?


「震えて眠れ魔王、貴様の家は何時でも我輩の炎に狙われている」


自信に満ちたその顔に免じて、今日のところはボコボコにするだけで勘弁してやることにした

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アエテルタニス三代噺『火災』 天蛍のえる @tenkei

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