第4話:十四番目の月

「そんな事も分からねえのかよ。死ね!」


ほほー。死ねときたか。

お目めは三角、お口は歯茎むき出し台形、鼻は膨れ上がって丸かいてチョンチョン…。浩二は心を鎮めるための絵描き歌を唱えた。


「次は必ず契約取れよクソが。今回の分を取り返さないとどうなるか分かってんだろうな?俺らの時代は失敗してもすぐ次の日に死ぬ気で契約取ってきたもんだよ。」

「はい。申し訳ありません。」


眉は坂道、お目めの水平線で受け止めて、下唇ぷっくり反省顔。アルコールを流しこんだら、サラリーマンのでっきあっがりー。


「そんで、大丈夫?」

「ああ、本当死んでやろうかな。って何度思った事か。」

「あれはさ、『過去の栄光おばけ』なんだよ。」

「過去の話をする人って、今の自分に何もないって大々的に発表してるようなもんだよな。」

「スティーブジョブズも驚愕の大発表会ね。」

「発表会、ほぼ毎週やるからなあ。そろそろ飽きてくれねえかな。」


「社長は、二十番だね。」

「二十番?」

「そう。月で行くと、満月が十五番目で十五夜でしょ。もう満月期は過ぎ去り消え入るだけの二十番目の月。」

「ああ。」

「私らは十四番目だ。たぶん。」

「うん。あと一歩で完璧なそれになれる。」


脱水したての洗濯機庫内にいるような熱気の大衆居酒屋で、「お疲れ様」の合図とともに満月色の液体が、二人の胃袋をたっぷりと満たしていく。

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冷えた朝に灯る希望 @chambord0520

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