とある夫婦のお茶漬けの話(できるだけ逆回しで)

 はい、おはようございます。えっ、何故ここでそんなにいるかですって?いえね、ミカがですね。ああ、ミカってのは妻です。そのミカがね、幸せそうに僕の方を見ていたんですよ。

 いつって、お茶漬けを食べてる時ですよ。いやあ見た目も凄く素敵でしてね。しらすに梅にシソでした。食べやすそうでお腹にも優しい。ああ、そうそう。お茶漬けを食べたのは、リビングの方でしてね。台所からミカが持ってきてくれたんです。はい。トントントントンなんて料理する音がキッチンから聞こえてましてね、それを目を閉じて聞くなんてのは、いいですねえ。

 なぜって? ああ、目を瞑ってたわけですか? それはですね、ちょっと昨日は疲れちゃいましてね。仕事で。リビングに入るなり、作業服も何もかも脱ぎ捨てて、部屋着に着替えちゃったんですよ。ええ、この服です。こんな格好で恐縮です。なにせ疲れてる時というのは、作業服は窮屈ですもんね。玄関からリビングにくる間の少しの距離でも、もう脱ぎたくて脱ぎたくて。ほら、まだそこに脱ぎっぱなしのが。お恥ずかしい。

 そうじゃなくて聞かれた事に答えろって? ……ああ、ミカに聞かれた事ですか? ええ。玄関に入ったらですね、ミカが出迎えてくれて、「何をして欲しいの」なんて言ってきましてね。ちょっと震えながら。それで手早く食べられる物が欲しいって答えたんですよ。あのときのミカの目。久しぶりに見たけど、やっぱり幸せそうで可愛かったなあ。

 なぜここにって、しつこいなあ。そりゃ仕事が終わったからですよ。妻のいる家に来て、何が悪いんですか。え? ミカですか? 奥にいますよ。いると思いますよ。もういいですか。あんまりしつこいと警察を呼びますよ。えっ、あなたが……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある夫婦のお茶漬けの話(できるだけ会話だけで) 吉岡梅 @uomasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ