2日目

自戒

朝、目を覚ますと見慣れない天井が目に入った。

意識が覚醒するに従って、だんだんと昨日までのことを思い出してくる。

「……僕がそれを忘れて、どうするんだ」

しっかりしなければならない。

御影を連れ出したのは、僕なのだから。

まだ、御影は僕に連れられてしまっているのだから。




顔を洗っていると、耳に遠慮がちに扉を閉める音が入ってきた。

顔を上げると、寝巻き姿の御影が、ちょうど自室として割り当てられた部屋から出てきたところだった。

「おはようございます。兄さん」

「ああ、おはよう」

早めに床に就いたとはいえ、やはり慣れない環境に放り込まれたことによる疲れがあったのだろう、いつもよりほんの少し眠そうな様子を隠しきれていない。

それでもしっかりとした姿勢で挨拶をしてくるあたりから、御影の性格というか、内面が伺えた。

「通信制の学校って、もう今日からだったりするのか?」

「いえ、手続きが色々とあるみたいで……まだ2、3日はかかるみたいです」

「そうか……まあ、その間はゆっくりするのがいいんじゃないか。普通なら夏休みの期間だろう」

「そうですが……」

僕の提案に対する返答を言い淀む御影。

真面目な性格の御影のことだし、その数日の間も自習するつもりだったのだろう。

だがそもそも、僕は御影をここに不自由させるために連れ出したのではない。

結果として不自由な今があるのなら、それを軽減させなければならない。それは僕の務めだろう。

元の高校では夏休みに入りたての時期だ。裏を返せば、それまでは普通に通学してきたことになる。

本来なら、夏が明けてからの入学の方がいいに決まっているのだ。今はそれを前倒しにしている状況ということになる。

「………………」

ここまで考えて、御影が口を噤んでしまっていることに気がついた。

僕としては、できれば少し羽を伸ばす―――という言い方はおかしいかもしれないけれど―――とにかくゆっくりして欲しいというのが本音だ。

しかし、今ここで僕が強く自分を出してしまうことは、結局御影自身を封じ込めてしまうことになるだろう。

それではダメなのだ。

もう、失敗してはいけない。

「……ま、無理しなければいいよ」

心配させまいと、できるだけ自然な口調で言う。

本当のことだった。無理して御影が苦しむのだけは避けなければならないから。

でも本質ではなかった。

僕は返事を待たずに居間へと歩を進めた。

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