第2話 実技

王族従属機関サイプスが崩壊、と同時に新たな勢力貴族従属機関ネクロムが最高機関として君臨した。

貴族従属機関ネクロム附属魔法大学校は、そんなネクロムの戦士を生み出すために設立された魔法士養成機関だ。4年制の学校で、魔法理論の座学から実技まで幅広いカリキュラムが展開されている。


「え〜実技だけど、2人一組で模擬戦やってもらう」


場所は変わって、第1体育館。

莫大な土地に構える大学校だけあって、体育館の規模も模擬戦をするには十分すぎる広さだった。壁には上級魔法のバリアが張っていて、体育館を損傷させる事もない


最上級魔法を扱うリンにとって、上級魔法のバリアでは少し心配だが、


「え〜まじかよ。よりによって戦闘記録員ライターと。負けたー!!」


「うわ〜、ドンマイ。1人でなんとかするしかねえじゃん!」


模擬戦を行う二組以外は、上の観客席へ移動した。

リンとレオは、一番上の席に座った。


「リン、お前さっきから焦った表情してどうした?急にガラでもなく怒ったりして」


レオは、リンの少しの変化を見抜いていた。

彼女は模擬戦を見ながら、静かに口を開いた。


「・・・・・・機神が復活した」


「・・・・ッ」


この世界には、機体マガシム喰体イーター、そしてヒューマンの3種類のタイプが存在する。この三つ巴の戦いは、古くから続いていた。15年前、機神デウスの討伐により機体マガシム側は崩壊をしていた。

人間による滅亡により、世界は平和を迎えていた、はずだった・・・・。


「次〜、リンとエレース。して〜」


「・・・・・呼ばれたぞ」


「・・・・うん。国家機密だけど、レオには言っておく。第2次機神戦争もそう遠くはないかもしれない」


リンは立ち上がると同時、一瞬で教師の目の前まで移動した。

鮮やかな芸当に観客席からは、おおっと歓声が聞こえる。彼女は、手のひらから空間を歪ませた。


『来て。美しい刀神イシス。この手に』


リンの手を差し伸べた空間が青く光る。

そこから、銀色に鋭く光る刀が姿を表した。黄色い歓声が更に勢いを増す。彼女の周りには、大量の水属性波動が波を立てながら渦巻く。


「さすが。『六天』の水属性女王」


「さぁ、来なさい。手加減はしてあげるわ」


----------




「次、レオとジャック。して〜リオレスと、ナディア」


リオレス。

先ほど、レオとリンを挑発した金髪の男だ。彼は、面倒臭そうに観客席から降りる。


「いや〜まさかね。戦闘記録員と模擬戦をするとは。実技点もあるんで、恨まないでくれよ。ハハッ」


戦闘開始と同時、リオレスの周りには雷が轟音と共に唸る。

レオを倒し、2人で悠々とジャックを狙おうという算段だ。雷の数十という数の刃がレオ単体を狙う。


「さぁ、必死によけてくれよ!!上級魔法『雷轟』ッ!!」


「くっ・・・・!」


レオはなんとかといった表情で受け身を取りながら転がり、避ける。彼は、一瞬目を離し、呆然と立ち尽くすジャックを睨みつけた。


「おいっ!お前も参加しろよ!チームだろうがッ」


戦闘記録員ライターを助けて、戦力になるの?」


「・・・クソがッ」


レオは予め用意していた、魔法耐性のある剣を手に取る。その剣で、雷を切った。2対1。魔法の使えない彼にとって、これ以上ない不利な状況。

余所見を一瞬した所為で、リオレスとナディアを見失う


「おせえ。遅すぎるぜ」


雷を拳にまとったリオレスが、レオの背後でそう吐き捨てる。

彼の背中を雷の拳が炸裂する。視界の歪みと共に、数mの宙を舞っていた。


「雷属性上級魔法『雷拳』」


意識が遠のく。

そんなレオの服を掴み、至近距離で再び『雷拳』を発動させる。やれー!やっちまえー!と、観客の声援がリオレスを後押しする。


「俺はお前みたいな無能の癖にイキがってるクソが大嫌いなんだよ。ここは、魔法士を育成するところだろ?さっさと見切りつけて失せろよ」


「自分の才能に酔いしれて、天狗になってるやつは一生上には上がれねえよ」


「ッ・・・、死にてえみたいだな。無能の癖にほざくんじゃねぇ!!」


リオレスが雷拳を放つ瞬間、轟音と共に第1体育館の天井が突然爆発した。

一瞬にして、場の雰囲気が凍りついた。

そこには、3mを越すであろう鋼の装甲を身にまとった化け物が5体、こちらに顔を覗かせている。足から顔まで錆びた鋼の集合体のような体で、目の部分が黄色く光っている。


「まっ、機体マガシムッ・・・・!!なんでっ・・!?」


その瞬間、観客席から悲鳴が走った。

クラスのほとんどが、必死の形相で逃げ場所を求めて走り出す。そこに、先ほどまで人を見下すような優越感のあるの表情はなかった。


「そんなッ!!もうはやッ・・・!!」


リンは刀を取り出した。

心臓が一気に緊張する。慌てたような、悲観したような表情で、手を耳に当てた。


貴族従属機関ネクロム、応答願います・・・・ッ!!こちらダンガム支部!附属大学校に・・・・、機体マガシムがっ!」


直後、大学校全体にサイレンが鳴り響く。






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戦闘記録員という名の魔法士 @pao

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