戦闘記録員という名の魔法士

@pao

第1話 封印・契約

「オクト、シグネ・・・・・、ハル・・・ン、ルーカス・・・・みんなっ・・・・!」


横たわる死体を横目に、少女は涙ぐんだ。


そこは、彼方まで続く戦場。

大地は焼け、空は魔法によって見た事もない赤黒い色で光る。数千を超える数のSレートの『喰体イーター』に対し、生き残ってる人間は15歳ほどの少年と少女のみ。


目の前には、『喰神』。SSSレートの『喰体イーター』の長。

少年少女の何十倍、いや何百倍のスケールを誇る化け物の前に、少女は涙を堪える事が出来なかった。ここで、死ぬ。体が動かない。


「いやだ・・・・、死にたくない・・・っ!」


「泣いてる場合じゃ、ねえんだ・・・」


少年はボロボロの体で、やっとの思いで立ち上がり、拳を握った。

少し笑った様にも見えた。


「リン、お前は・・・・生きろ」


リンと呼ばれる少女は、最初言っている意味が理解できなかった。

だが、少年の手のひらが青白く光り始めた事で、その意味がようやく理解できた。神級魔法で、喰神ごと心中する気だ。


「そんな、やめ・・・・・、いやだっ!!死んでほしくないッ!!うっ、ううっ・・・」


「リン、大丈夫・・・・。俺は死にはしないよ・・・・・。俺は、誇り高き『王族従属機関サイプス』の戦士・・・っ!『王族従属機関サイプス』の意志と共に、俺は生き続けるッ・・・・!」


少女リンは叫ぶ。

そんな声も届かず、少年は青白い光で見えなくなった。やがて、喰神の断末魔が聞こえる。リンは、爆風に煽られ意識を失った。




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ここは、『貴族従属機関ネクロム附属魔法大学校』。

王都ダンガムの中心に位置する魔法士育成機関で、様々な魔法士の卵が集う。そんな大学校のロビーを、颯爽と歩く一人の女性。


ロングの黒髪に、スラッとした細身の体格。ぱっちりとした瞳に、妖艶な雰囲気を併せ持った女性。ロビーを歩くだけで、羨望の眼差しが集まる。


「あれがっ、『貴族従属機関ネクロム』の女騎士。リン様。初めて見た・・・・」


「カッコイイ・・・・」


そんな声をよそに、リンと呼ばれる女性は、ロビーの端に位置する教室に入った。

そこでは、一人の教師と向かって30人ほどの学生が机に座って座学を受けていた。


「すみません。会議があったので、遅れました」


「おう〜、『貴族従属機関ネクロム』の女騎士は忙しいねぇ〜」


「その言い方はやめてください」


顎ヒゲを生やし、無造作にハネ上がった茶髪をした細目の教師は茶化す様にそう言った。リンは軽くあしらう様子でそのまま自分の席に座った。


「まぁいいや。授業続けるぞ〜。どこまで話したっけ・・・・・そうだ。2年前の『喰神戦争』で、我々は勝利したが、同時に多大な損害を受けた。『王族従属機関サイプス』は崩壊。んで〜」


リンが席に座った時、小声で隣の男が話しかけてきた。


「大変だねぇ〜、『貴族従属機関ネクロム』の女騎士は」


「レオ。やめて。今は大変な時期なの」


「おい〜!そこ〜、何話してんだ〜」


教師が牽制するようにリンとレオを見た。リンはふぅとため息をつき、なんでもありませんと返す。


「今は大事な話だぞ〜、そうだ。ちょうどお前たちと同じぐらいの年代の話だ。その『喰神戦争』で、喰神エレボスを倒したとされるのは二人の少年少女だと言われている。そいつらはまとめて『英雄神ウルスラグナ』と呼ばれている。『王族従属機関サイプス』の崩壊で、そいつらも現在は行方を眩ましている。だが〜、そいつらのお陰で『喰体イーター』側は指導者の死亡で、事実上の崩壊。3年に渡った『喰神戦争』も幕を閉じた・・・・・って訳だ。どうだ?もうお前らと同じ年代の天才的なやつらが国の中核にはゴロゴロいる」


教師の話が終わった頃、金髪の目つきの悪い男が話し始めた。


「まぁ確かに、天才的なやつらがいるのは置いといて。俺には今の話を聞いてて無謀だと思いましたね、『王族従属機関サイプス』が。国の意向は『喰体』側との示談だったはず。それを無視して、戦闘に踏み切った・・・・。国の最高機関が崩壊すれば、どうなるかわかってたはず。『喰神』と共倒れで良かったけども」


「なんですってッ・・・・!!」


バンと机を叩きながらリンは立ち上がった。

前に座っている金髪の男を睨みつける。


「なんだ?『貴族従属機関ネクロム』の女騎士様さんよぉ〜。てっきり『王族従属機関サイプス』はお嫌いなのかと思ってたよ。俺は事実を言っただけだぜ?それと関係ない話だが、気高き女騎士なんだから、そろそろそこの『戦闘記録員ライター』と戯れてると品が無くなるぜ?」


金髪の男の挑発に、クラス中からクスクスと小さな笑いが起こった。

リンは、こみあげる怒りに拳を握った。


「私はともかく、レオはッ!!エレボスを封」


「やめろリン。それは言わない約束だし、事実だ」


レオは冷静な声で、リンを静止した。

彼女は涙ぐんだ目で、キッとレオを見た。彼は、表情1つ変えずに足組みをしたまま金髪の男を見ていた。


「はい、熱くなるのはそこまで。金髪の男リオレスのいう事も一理ある。ま、お前らはまだまだ発展途上・・・・、好きな事を言い合って成長しろ。して、拳で語り合え。次は実技の時間だからな」


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