第6話 『必ず儲かるゲームソフト転売法』の解説
「あの……さ、鍋島君、前にもお願いしたんだけど、もう一度聞きたいことがあって……」
「なんだ?」
「前に、鍋島君がゲームソフトの転売で三百万円儲けた事があったじゃない? あれをもう一度聞きたいの……」
「またか……お前は聞く気もないのに質問する癖があるだろう……そのうち誰も答えてくれなくなるぞ
佐賀国大統領の願い事――改版
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881218218/episodes/1177354054881222856
もしくは
願い事
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880470369/episodes/1177354054882731121
をもう一回読んでこい!」
「うん……。でも、最近だんだん自覚してきたの、私は人の話を聞いてないんだなって……でもね、佐賀国民のためにお金儲けしなくちゃいけなくなって、もっと真剣に考えなきゃって思うようになってね……」
「大丈夫か? 今、お前、これまで真剣に聞いていませんでしたって白状したぞ」
「あ! いや、そんなことない!」
「……まあいいさ、理沙がお金に関心を持ってくれるのは、俺にとっても都合がいい、なんせ、これから先、いくつもの複雑な儲けの仕組みを提案して、大頭領承認をとらなきゃいけないからな……では行くぞ、まずは百パーセントの消費性向の乗数効果の実験のために……」
「あ、その辺はあとまわしで……」
「話の腰を折るやつだな、まあ、いい、どこから話せと?」
「えっと、あの、ルールの盲点をついたところから」
「なるほど、わかった――商売ってやつは、ルールがあるから成り立つ。でなければ泥棒だ。だったら、ルールを最も理解した人間が最も儲かる。そう思わないか?」
(違う気がするけど、言うのはやめておこう)
「――中古ソフトの販売のルールはこうだ、何か気が付くだろう?」
店の買取 ソフトの在庫が
(通常)1~9本の時は基本価格で買取
(在庫切)0本の時は20%増しで買取
(余剰)10本以上ある時はー20%で買取
店の販売 ソフトの在庫が
(通常)1~9本の時は50%増しで販売
(余剰)10本以上ある時は+10%で販売
(在庫切)もちろん、販売できない
「なるほどねーって全くわからん!」
「そうなのか……困ったな……」
「やめて! そんな、かわいそうな子を見るような目で見るのはやめて! だったらまだ、いつものように、ぼろくそにののしられた方がいい……」
「前に言った時は少しはわかっているように思ったが……お前なら、いつソフトを売る?」
「え? いつ? いつって言われたら……。そうね、一番高く買ってもらえるように
、在庫のないときに売るわ」
「そういう事だ、需要と供給ってやつだな。思い出してきたろう?」
「う、うん……なんとなく……」
「わかりやすく、基本価格を100円として話そう」
「基本価格? あぁ、基本的な価値が100円って事ね、ソフトの在庫が1~9本のときは基本価格100円のソフトは100円で買い取られる……」
「85%以上の取引が、通常価格で取引されていた。つまり、通常価格が100円だとすれば、ほとんどが100円で下取りされ、150円で販売されていた。在庫切れのソフトが売買される事は稀ってことだ」
「100円で仕入れて、150円で売るから、お店は50円の利益ね」
「そう、この運用ルールに従って販売していれば、絶対に損はしない……と言って、オーナーの
「鯨間さん……亡くなっちゃったんだよね……いまだに現実だとは思えない……」
「数字に感情を持ち込むな……ほら、次の問題だ。店は本当に損をする事はないのか? つまり、客側が儲けを出す方法が見つからないか? 家賃とか人件費とかは除外して、ソフトの売り買いルールの盲点を見つけてみろ」
「えー、めんどくさいー」
「理沙、お前、やっぱり聞く気がないんだろ? 聞くだけなら誰だって出来る。理解するには自分で考えることが必要だ! 考えろ!」
「いやーねー、英章先生みたいな事言って……そうね、まずは、一番安いソフトを手に入れるために、在庫が10本以上あるソフトを買おう。100円+10%で110円で買えるね。それから、一番高く買ってもらえるように、在庫のない時に20%増しの120円で売る!――そしたら10円儲かるじゃない! 私すごい!」
◇◇◇
『ソフトの在庫が10本以上あるときは基本価格の+10%で販売する』
理沙が110円で購入
『ソフトの在庫が0本のときは基本価格の20%増しで買い取る』
理沙が120円で販売
差し引き10円の儲け
◇◇◇
「まあ、半分正解だ。株式の売買と同じだな、安い時に買って、高い時に売る――しかし、うまい具合に在庫切れの時に売りぬく事ができるかな?」
「それは……待つしかないでしょう? 他にどうやればいいの?」
「それを考えろと言っている」
「ギブアップ!」
「はや……まあいい。正解は『まとめて10本買って、10本売る』だ」
「なにそれ……あ、そう言えばそんな事言ってたわね、鍋島君……同じソフトをまとめて10本も売り買いするような人間はいない……だからこその盲点だみたいな事を……」
「そういうことだ。普通のゲームユーザーは1本以上ソフトを持っていない。無意味だからな。だから、このルールに穴がある事に誰も気が付かなかった――俺以外はな」
「まって……えっと、10本在庫があるソフトをまとめて10本買うと……110円x10=1,100円ね……。これを、まとめて10本売ると……あ! さっき在庫の10本が売れてしまったので、在庫切れ……だから20%増しの1,200円で買ってもらえる!」
「正解だ。買って売っただけで、100円の利益が出る。これはルールとしては大きな欠陥だ。ただ、誰も気が付かなかっただけだな。もちろん、その後も気付かれない様に、同じルールの二つの店舗の間で売買をしたり、複数の売買のタイミングをずらしたりと言う調整はやった」
「そりゃね、今、目の前で売った商品を100円プラスして買う羽目になれば誰だって気が付くわよね……でも、やっぱり、なんだか犯罪くさいよ。あの時も随分腹が立ったけれど、今でも、釈然としないな……」
「そこは釈然としろ。結果はどうだ? だれも損していないし、むしろハッピーになった。釈然としないのは、お前の頭の中が現実に付いて行けていないと言う事だ。釈然とする事ができたとき、お前の脳は、『儲け脳』に変わるんだ」
「儲け脳? そんなのあるの? ねぇ、本当に損していないの? 鯨間さんは病気で亡くなってしまったから、もう本人に聞く事はできないのよ」
「じゃあ、跡を引き継いだ紅迫に聞いて見ろよ、あの男は今では三店舗を持っていて、順調に利益をのばしているぞ」
「それは、紅迫さんの手腕じゃないの? 運が良かっただけじゃない?」
「違う。俺がやったのは『市場の活性化』だ。廃れていた中古ソフトの売買という市場に光を当てたんだ。二つの店を往復して、俺たちは売買額をどんどんと増やして行った。店の売上げは、いつしか倍増し、鯨間は銀行へ融資の話しを持ちかけ、支店を出すことに成功した。もちろん、通期でみれば、俺たちの利益分が赤字となるだろうが、銀行が注目したのは売上げの伸び率だ。つまり、市場が大きくなっているということに価値を見出したんだな」
「でも、通期で見れば赤字なんでしょ? やっぱり損をしているじゃない」
「俺たちだけが売買額を増やしたとすれば、そうだな……しかし、コミニティーが生まれたのはお前も知っているだろう?」
「あの、鍋島君がそそのかした不良グループに、無理やり仲間にされて売買を手伝わされてた人たちね。あの人たちこそ被害者じゃない」
「いや、そうとも言えない。初めはいやいやだったかもしれないが、彼らはだんだん、中古ソフトの中には、実は面白いゲームが埋もれている事に気が付いた。そのうち、仲間内ですごく面白いゲームや、とんでもないクソゲーを見つけてきて自慢しあうようなブームが起きて、俺たちの売買とは関係なく中古ソフトを買いはじめた」
「それって……」
「そう、市場が活性化したんだ。急に売上げが上がった小さな市場に注目した人たちが集まって来て、それが更に話題となり、本来の魅力に気が付く人が沢山現れた。そうして紅迫の店には大きく膨らんだユーザーが集まり、俺たちの売買がなくなった後も、それを補って余りある額を売り上げた。もちろん利益をともなってな」
「ぐぬぬ……」
「俺たちの出現により、鯨間は、春日と結婚するための条件である、支店を増やす事に成功し、病気でなくなった後の遺言どおり、親友である紅迫にそれを譲渡し、春日には遺産を残すことが出来た。春日は遺産を受け取り、二人の内の一人だけを選べないと言う長年の悩みに終止符を打ち、日和花道へ就職して幸せそうだ。紅迫は店舗を一気に三店舗に増やし、利益を順調に延ばしている。コミニティーのやつらは楽しい趣味を満喫し、そして――」
「鍋島君は三百万円の利益を得た」
「そうだ、しかし、それだけじゃないだろう? それを元手に世界同時永代供養を実業化して、更に――結局は佐賀国として独立して、佐賀国民を幸せに導く理沙と言う大統領を生んだ。全てはあのソフトの販売から始まったんだ。これでもお前は、まだ、犯罪くさいとかぬかすのか……」
「はいはい、わかりましたよ、全ては鍋島様のおかげでございるますです」
「また変な日本語を……あの話とおんなじだ『例え偽善であっても、それによって救われた人にとっては善である』嘘の市場が本当の市場を生んだんだ。よくある話だろ?」
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