第5話 異世界の常識
前世でも平凡、転生先の異世界でも平凡な俺に非凡なモノが引っ付いて離れなくなった。森の中で領兵の俺を探す声を聞き、やっと合流できたと思った瞬間、長兄の拳骨が飛んできた。陽が落ちかけた薄暗闇の森の中で、マジで目から星が散った。長兄の手が振り上げられた瞬間、俺の頭の上を陣取っていたアイツは、宙に舞って事なきを得ている。なんて調子のよい奴だ。俺の頭を守って、代わりに兄の拳骨を受けてくれてもよいじゃないか。
その後抱きしめられ、号泣しながらに無事を喜ばれた。心配かけたことは本当に申し訳ないと思うし、皆にも迷惑をかけてしまった。ごめんよ、兄ちゃん。
「まさか、それはドラゴンか?」
鼻を啜りながら俺の顔の横に浮かぶアイツに気付いた長兄は、目を見開いている。そんなに珍しいモノなのか?確かに領地内で見たことはないが、家にある絵本にもしょっちゅう出てくるし、森の深部や山岳地帯に行けばそれなりにいるのかと思っていた俺は、異世界の常識にも疎かったらしい。卵の孵化に立ち会ってしまい、そのまま懐かれてついてきてしまったことを正直に話した。
「そうか…、まだ契約はしていないんだな」
「契約が何か分からない」
兄の抱擁が外れると、アイツはまた俺の頭にしがみつく。休憩所かなにかと勘違いしてるんじゃないか?肩が凝ると程ではないけれど、重くないわけではない。
「とにかく、森を出よう。陽が暮れれば魔獣が襲ってくる」
一緒に探してくれた領民、領兵に礼を言い、涙でぐちゃぐちゃになっていたいつも一緒に遊ぶ悪ガキどもやその母親たちにもみくちゃにされ、なぜかその間アイツは空の上へ避難。俺から人が離れると、再び頭の上に鎮座する。他の人間が触れようとすると牙を剥いて威嚇し、俺が手を伸ばしてどけようとすると髪にしがみつく。
馬に乗る兄の前に座らされ、領兵を率いて屋敷に帰る道すがら、捜索の様子を兄から聞かされた。
「足跡やお前の残した痕跡を辿って、かなり森の奥まで探したんだが、不思議な程獣にも魔獣にも遭遇しなかったんだ」
俺も行きも帰りも魔獣には会わなかった。遠巻きにウサギもどきやタヌキもどきが見ているのは分かったが。
「もしかして、その頭の上のモノの力なのかもしれんな。もしくはソイツの親か」
「親はいなかったよ。まるで親が卵だけ置いてきたみたいに見えた」
「今のところ人に危害を加える気はなさそうだが、俺もドラゴンについてはよく知らん。聞いたことがあるのは勇者がドラゴンと戦って倒して、勇者の強さに惹かれたドラゴンが勇者と契約して共に冒険に出かけたって話くらいだ」
「……それ、母様が読んでくれた絵本だよね」
トリセツの無い異世界転生 @alice_n
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