第4話 出会い
そんな子供らしい子供時代を送り、異世界ライフを満喫している俺に、非常識な出来事が起きた。
領地の西側には深い森があり、魔獣の住みかとなっている。時に森から出てきた魔獣が畑や家畜を荒らしたり、繁殖期や餌の少ない時期には人を襲うこともある。全ての魔獣が人に害を成すとわけではないが、一般的な動物より賢く、上位種には魔術を使うものもいるので、油断はできない。ならば森から離れて暮らせば良いのだろうけれど、魔力を纏った森には薬草や魔術の媒体になるような植物も多く、魔獣の遺体からは素材や肉も採れる。人は森から完全に離れることもできない。この森でしか取れない薬草もあり、領地の大切な収益なのだ。
子供たちは小さなころから薬草摘みの大人たちを手伝い、森の浅い場所で安全な森の歩き方を覚える。深部に行けば迷うし、それだけ危険な獣や魔獣もいる。遊びながら危険な魔獣を覚え、危険に近づかない事を学び、収入源となる薬草を摘む。かつて俺が薬草を摘む大人の目を盗んで入り込んで迷った森だ。
当然、大人たちから離れることが危険だと、俺は分かっていた。命を脅かす魔獣や獣が闊歩する森で、身を守る術を持たない者が森の深部に足を踏み入れることが、どれほどの危険をはらんでいるのか分からないほど馬鹿ではない。中学生程度の判断力はある。子供の冒険心と言うには無謀すぎることは分かっていた。それでも俺はあの日、大人たちから離れ、一人森の深部に向かった。
理由は「呼ばれた」からだ。明確に俺を呼ぶ「何か」に導かれ、疑問も持たずに足を進める。あの時は不思議と不安は無かった。迷うことなく森の深部にある洞窟に辿り着き、柔らかく枝と草を敷き詰めた寝床に包まれていた卵。
「お前か?」
当然、卵は話さない。でも何故か「分かる」。俺を呼んだのは「コイツ」だと。周囲に「親」の気配は無い。餌の残骸や糞尿の匂いもない。この寝床は卵のためだけの空間だった。
異世界スゲー。元の世界なら、口に出そうものなら厨二病認定一直線の出来事だぞ、これ。そんなことを考えながら、卵に掌を近付けてみる。触れるか触れないかのその瞬間、卵に罅が入った。
「ぎゃっ」
「ギャッ」
驚いて後ずさり、尻餅をついた俺の目の前で卵から出てきたのは、蜥蜴……に蝙蝠のような羽の生えた、元の世界ではドラゴンと呼ばれるモノだった。
俺を見つめるつぶらな瞳は愛嬌があると言えなくもないが、爬虫類は俺の好みではない。カパッと開いた口には、幼いながらも鋭い牙が見える。基本ご遠慮申し上げたい。犬じゃあるまいし、長い尻尾はフリフリと揺れて、可愛いと思わなくもない。殻の欠片を背中に張り付かせたまま、俺の目の前まで羽を揺らして飛ぶ…というより浮いてきたソイツは、宙に浮いたままじっと俺を見つめ続ける。
「お前、親は?」
「ギャッ」
「なんで俺を呼んだんだ?」
「ギャッ」
「……俺、家に帰りたいんだけれど」
「ギャッ」
卵の方が、言いたいことが分かった気がする。コイツとの意思疎通は無理だと結論付けた俺は、ため息をつきながら立ち上がった。
「じゃあ、俺は帰るから。お前も親を探しに行け」
「ギャッ」
「……オイ」
洞窟の出口に向かって歩き始めた俺の頭の上に、奴は降り立った。長い尻尾が揺れて首筋をピタピタと叩く。下ろそうにも、鍵爪の前足が髪の毛をしっかり掴んでいて、離さない。
結局、領兵を率いた長兄に見つかるまで森の中を彷徨うわけだが、道を間違えると髪の毛を引っ張られ、魔獣の気配を感じても一切襲ってくることもなく、それどころか向こうから逃げ出しているのではないかと思える程。どう考えても頭の上のコイツの力だとしか思えない。
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