第3話 兄弟


 領主である父に似た長兄は魔力量はそこそこあるがコントロールが苦手な一発屋タイプで、首都の本院に進んだものの領主として父の後を継ぐからと一年で地元に戻ってきた。今は父の補佐として働いており、大らかな人柄で領民と共に畑仕事をしたり、領兵の訓練に混じったり、田舎領主の道を着々と進んで知る。きっと領民に慕われる良い領主になるだろう。

 次兄はエリートコースに乗って首都の本院で学んでいる。魔術師より国の中枢を担う文官を希望しているらしい。母親譲りの線の細い美形だが、俺にとっては恐怖の対象だ。きっとこの世界でも伝説になっている子供向けの絵本に出てくる魔王が人間に転生したら、この次兄になるのではないかと俺はかなり本気で思っている。

 以前領地に魔獣が出て畑を荒らした上、領民が襲われそうになったとき、熊並の大きさの猪もどきを氷の矢で四方八方から滅多刺しにして駆除した次兄の姿を俺は忘れない。フォークとナイフより重い物は持ったことが無さそうな美少年が、目を細めて猪もどきを指さすと、次の瞬間には串刺しにしたのだ。足を挫き、畑の隅で恐怖に蹲る領民に「お怪我はありませんか?」と手を差し伸べた兄の笑顔に恐怖するようになったのは、あの日からだ。怪我をした親父さんに肩を貸し、奥さんと二人で村まで運び、感謝する村長他領民たちに「領地を守るのは私達の義務ですから、お気になさらず」と爽やかに立ち去った後、領兵達が猪もどきを解体したり、壊れた柵を直している現場を横目に「私に献上されるべき領内の収穫物に手を出そうなんて、消し炭にしても飽き足らん」と呟いたのだ。消し炭にせずに串刺した理由を聞いた俺に、「血肉一滴に至るまで、有効利用させてその罪購わせるため」だと語った次兄、これが教会に通い始めたばかりの子供の頃のエピソードなんだから、末恐ろしい。

 そして俺だが、魔力量はそこそこ。コントロールも今のところ教会で習う術はこなせているので、悪くはない方だと思う。だが次兄の様に大技を意のままに操るという程でもないので、恐らくエリートとは程遠い、得意科目は多少人より出来が良いという、平凡の域を脱しない程度だ。両親にしても跡継ぎはいるし、優秀な次兄はいるし、三男坊に過度な期待をかけることなく、「お前のやりたいようにやりなさい」と放任主義を貫いてくれている。領民の子供たちと共に畑のトマトもどきを盗み食いして村長に拳骨を喰らったり、森に探検に出かけて迷子になり、領兵領民たちに捜索される大騒ぎを起こして長兄から拳骨を喰らったり、掌サイズの蜥蜴もどきな魔獣相手に勇者ごっこしながら本気で戦ったり、有難いことに自由気ままな少年時代を送らせてもらっている。

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