第3話

学院の広い敷地にある、一部崖などもある広い丘陵地。

今日は少し、風が強い。

「ねぇねぇ、先生の契約竜って何?」

「俺か?中位の雷竜…だな」

「見たい見たい見たい!」

「やだね、用もないのに呼んだりすると、機嫌を損ねる」

「えー!見ーたーい!」

言い出したら聞かない。聞くまでうるさいのは、やはり毎度のことだ。

大きなため息とともに、甘いなぁと胸の奥で呟く。

「しょうのない奴だ…」

「やた!」

この台詞が出たら、大抵のことは叶うのを知っていて目を輝かせる。

渋々、空中に術式を展開する。かなり大きな魔法陣が描かれた。

「でか!」

「竜がくぐる門だからな」

言ってるうちに、厳めしい頭部が現れた。胴体はマイクロバスほど。太い尾がゆるりと魔法陣から抜け出る。

かなり不機嫌そうだ。

なぜ呼んだ?と問うように、ぐうっと顔を近付けてくる。

「悪いなぁ…」

リョクの方を見て、続ける。

「今日はこいつが契約するんだ」

竜もリョクへ目を向ける。

「こいつは俺より魔力が大きくてな。何かあったら助けてくれるか?」

今度はリョクの方へ顔を近付ける。

さすがに怖じ気づいたのか、リョクは少し後ずさる。

さらに竜は顔を突きだした。

そこで頑張って、手を伸ばす。

「うぁっち!」

慌てて引っ込める。竜の表面に小さな電撃が走っていた。雷竜にとっては静電気。

ちょっとだけ涙目になっているのが、かわいい。

小さく笑いながら、声を掛ける。

「じゃあ、始めるか」

「はい!」

元気な声が返った。


召喚用の魔法陣が展開される。

しばらくは何も起こらない。

「…あれぇ?」

「気を抜くな!」

「だって…!」

言ってるそばから、渦巻く炎が魔法陣から噴き出した。

「うわっ!」

「炎竜か」

200メートルほど先まで伸びた炎が、ゆっくり薄れていく。

これは相当な抵抗をされるだろう。

徐々に姿を現して来たのは、やはり火系の魔獣最大の炎竜だった。

「…先生、これ…」

「引きずり出されて怒ってるんだ。暴れるぞ。しっかり押さえろ」

魔法陣が揺らぎそうになるのを、注意をする。

次に、拘束用の魔法陣を展開させる。

全身を現した炎竜は、雷竜よりもさらに大きく、2階建ての観光バスほどの胴体から伸びる、長い尾を振り、ウロコの間から火の粉の散らせて抗った。

「うぉーっ、すげーっ!」

「でけーっ!危ねっ!」

「あちあちあちっ!」

あんまり騒がしいので、少し離れてうずくまっていた雷竜が頭をもたげる。

だが、リョクの顔は愉しげだった。まだ余裕があるのだ。

完全に押さえ込むと、契約印を描き込み始める。

のたうつようにして炎竜が全力で逆らう。

リョクはこれに対抗して、拘束用の魔法陣への魔力を増やす。とうとう尾を振ることさえ出来ないほど、押さえ付けた。

契約印が完成すると、炎竜は諦めたのか大人しくなった。

「よし、上出来だ」

褒められて、笑う。

「もう押さえておかなくてもいいぞ」

魔法陣が解消されると、すぐさま炎竜へ駆け寄って行った。

「俺の竜ー、よろしくなっ!」

こんな小僧に、とでも言うかのように、ふんっと鼻息を噴かれる。

「わ、あちーよっ」

火の粉を吹き掛けられ、慌てる。

「何だよー」

契約したのに何すんだと怒っているリョクの後ろから、ゆっくり炎竜に近付く。

「むやみに呼び出したりするなよ」

「当然でしょ、こんな大物かえって呼べないよ」

喜色満面。

「じゃ、召喚式を逆転させて帰してやれ」

「え?まだいいじゃん」

嬉しくてしかたないのだろう。炎竜の周りを回り始める。

まぁいいかと、雷竜のそばへ向かった。

「今日はありがとうな。心強かったよ」

そう鼻面を撫でてから、魔法陣を開く。

雷竜は伏せていた体を起こし、魔法陣をくぐって行った。

さて、と振り返ると、炎竜も帰したのか姿がない。

「先生ー」

駆け寄ってきたリョク。

「ちゃんと帰せたようだな」

「うん、腹減った」

日が傾きつつあり、風が冷たさを増してきていた。腹も減るだろう。

今日は町へ連れて、好きな物でも食べさせてやるか。

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竜との契約 一日あい @hitoka-I

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