言葉が出ない。読み終わって今、僕は脱力感に浸りながらレビューを書いている。
もう一度言おう、言葉が出ない。
走り抜けた。走って、走って、走り抜けていた。
彼らの青春……いや、ここでは夏と表現した方が正しいか。
紡ぐ言葉一つ一つに透明な色付きガラスのような淡い色が色づいて、彼らの夏を鮮明に、過激に見せてくれる。そのことに目をそらしたとしても。
匂いが張り付いていた。音がこべりついてきた。
森林に蔓延する、むせるほどの土の匂い。張り付いてきた。
それすらも構わず、走り抜ける、彼の心臓の拍動が。こべりついてきた。
できることなら、最後まで見守りたい。それがたとえ最悪でも。
これは彼らの夏だ、17度目の夏だ。
彼らの欠けた何かを探す、夏だ。
この作品との出会いこそ、最悪に近かった。大賞を取り奢った私はTwitterで「カクヨム甲子園」とサーチし、この作品に目を止めた。
そして、当初半分嘲りという、物書きの風上にもおけない態度で、読んだわけだか。
結論から言おう、明らかに私の負けだ。文章に上下を付けるべきでないと、私の師匠は言っていたが、やはり、語彙力、文の構成、キャラの人間としての厚み、そして仕掛け、どれをとっても私が勝ることが出来るものが無いように感じる。
私はこの作品が好きだ。
それこそ、最後の終わり方まで、そして最後の一文まで、一筋縄ではないこの作品が大好きだ。
是非読むことをオススメする。
これが本物の大賞だったに違いないと思うから。