エピローグ
あれから一年後。
あたしの腕の中には、ブラッドがいる。
正確には、ブラッドとあたしの子。
彼は入れ替わりに、子供を残していったのだ。
そしてあたしは街に残り、孤児院に身を寄せている。
今までの稼ぎ、ブラッドがあたしに残したもの。
それをそっくり寄付して、ここに役を得た。
どのみち身を寄せる場所もない。
一人では孤独すぎて、耐えられない。
だからこれしかなかった。
そしてこれが、あたしの復讐でもある。
組織の目の前で、目障りなあたしが生き続ける。
ブラッドは、知っている情報をいくつかに分けていた。
一つは自首するための、当事者しか知らない計画や現場の状況。
刑事にあたしが渡したバッグに入っていた。
それとは別に、誰と打ち合わせたか、どこで集まったか、どんな指示があったか、知りうる組織の仕組み、組織外の支援者など、様々な情報が細かく書かれたものもあった。
あたしの知っている人物もいれば、驚きの企業も載っている。
この資料は数か所に預けられている。いずれも、あたしに危害が加えられたときに送付されるということだ。
マスコミ、法律関係の各所、行政、警察……。
ブラッドに報復したからか、ブラッドの脅しのせいか、あたしを狙うものは居なかった。
はじめの一か月など、あたしから殺してもらいに行ってもよかったほどなのに。
笑っちゃうわよね。
死にたいあたしは強気だった。
だって死にたかったのだから、怖いものなどある訳がない。
だから、エリーにあたしから会いに行ってやった。
そして向かい合って、言ってやったのだ。
「あたしも一人になったから、もう怖いものもないんですよ、フフッ。
殺されそうだから、みんなに挨拶をして回るんです。次は週刊誌で、明日は警察だったかしら?」
それだけで十分だった。
あたしの前には、紙袋に入った封筒が差し出された。
用意した資料――帳簿やら日報――を出すまでもなかった。
遠慮なくそれを頂くと、コーヒーをひっくり返してあげた。
もちろんエリーの頭の上でね。
あのときだから、できたこと。
いまだったら、とてもできない。
あたしには、守るべきものがたくさんあるのだ。
あたしの娘。
ブラッドの息子。
孤児院と子供たち、その職員。
だからあたしは生き続けていく。
ブラッドが守ろうとしたあたしの人生を、あたしらしく生きていくのだ。
END
裏の顔 1976 @-gunma-
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