友達の色は銀色1

お父さんは浮気している。それはお母さんも知っていることだ。

だけど表向きは仲の良い夫婦を演じている。


娘である、私のことを思ってそんな夫婦劇場を、毎日繰り返しているのだと思う。だけどそんな心遣いが私の小さい心を、ノコギリでギコギコひき切るように傷つけていく。それを二人はわかっていない。


「聖羅。朝ごはん食べて行きなさい」


私がそのまま出かけようとすると呼び止めてくる。(本当に面倒くさい。あなたたちの良い夫婦ごっこを見せられながら朝食なんて食べる気にならないわよ。そんな平和な家庭の小芝居に、付き合いきれない。)私は無愛想に答える。


「いらない」

「どうして?お腹空くでしょう」

「それよりお金ちょうだい」

母は露骨に怪訝そうな顔をして、少し強い口調で問いただしてくる。

「何に使うの?この間あげたばっかりでしょう?」


私は無表情で冷たく答える。

「じゃーいいよ体売るから」

「聖羅!」


お母さんは私を睨みつけて、本気で怒っている。しかし私の表情がこわばるのを見ると、フッとため息をついて、財布から1万円札を取り出す。そしてそれを私に渡してきた。


どうして渡すのよ。そこは怒鳴りつけるところでしょう・・・本当にムカつく。母とのやり取りを、リビングで何も言わず無視し続けるお父さんにはもっとムカつく。この家族は一体何なのよ・・・


私は一万円を握りしめて、荒々しく靴を履くと、そのまま無言で家を飛び出した。


「そういえば由紀。由香理ちゃんが亡くなって、もう三日も経つわよね。それから進展はあったのかしら?テレビのニュースとか全然やらないわよね」


母は新聞を広げて見ながら、そんな世間話を、キッチンで朝食の目玉焼きを焼いている私に振ってくる。


「どうかな。学校に警察が聞き込みには来ていたけど・・どうも誤って蔵橋から落ちたんじゃないかって、話にはなってるみたい」


自分で話を振っておいて、母は私のその返答を聞いているのか聞いていないのか、新聞を食い入るように見ている。


「あらあらあら・・小さい記事だけど、新聞に載っているわよ。由香理ちゃんのこと。えーと百合川の中学生の水死体発見の件では、警察では事件性は薄いとの見解であり、誤って橋から転落したのではないかと推測しているようだ。しかし弊紙では独自の情報により、事件の可能性も十分にあると判断している。引き続き情報を収集して取材を続けるつもりである。あらあらあら事件の可能性もあるって書いてるわよ」


「それ翼見新聞でしょう?ちょっと信憑性なくない?独自の情報って意味わからないよ」

私の台詞に納得したのか、母もウンウン頷きながら。

「そうよね・・あまり信用はできないわよね」

私はそんな母にちょっと呆れ気味に苦笑いしながら。

「じゃーどうしてそんな新聞とってるのよ」

「だって契約の時にいっぱい洗剤やチケットくれたし・・・ちょっと面白いのよこの新聞」

(多分、勧誘の時の特典につられただけだな・・)私はトースターから焼きあがったパンを取り出すと、半熟の焼き加減に出来上がった目玉焼きを、そのパンにのせた。


冷蔵庫からお気に入りの野菜ジュースを取り出し、コップに注ぎ。あらかじめ作っておいたサラダと一緒にテーブルに持って行く。


「あらあらあら・・美味しそうね」

その聞きなれた母の台詞に、いつものが始まったと無表情で返す。

「あげないよ。さっきいるかどうか聞いたでしょう」

「見てるとね、欲しくなるのよ」

ちょっと呆れ気味、諦め気味に私は、座ったばっかりの椅子から立ち上がり、キッチンに向かう。


並木第二中学校の正門前。生徒たちがゾロゾロと、門の中へと吸い込まれる。朝のいつもの光景の中、私もその波に溶け込もうとした。しかし寝ぼけた声がそれを阻む。

「由紀おはよう」

いつものように明るい表情で挨拶してくる友人に、少し安心した私は、笑顔で挨拶を返す。


「おはよう瑠璃。ちょっとは元気でた?」

「うん・・もう大丈夫・・」


瑠璃は由香理が亡くなって、かなり落ち込んでいた。瑠璃と由香理は前はそれほど仲良くなかったけど、最近はなぜか急に仲良くなり始めてた。


不自然なくらい一緒にいるのを見てたけど・・そういえば何がきっかけで仲良くなったのか聞いていないな。


そのまま二人でそのまま校内へと入ろうとした時、聞きなれない声に瑠璃が止められる。


「式部さん」

声の主を見ると、並木第一中学校の制服の女子二人が立っている。

それを見た瑠璃はなぜかちょっと青ざめてる。私はそんな様子の瑠璃を気遣い、小声で声をかける。


「嫌な相手なら私が話そうか?」

ちょっと戸惑っていたが瑠璃は私に微笑んで返事する。

「ありがとう由紀。でも大丈夫、ちょっと話ししてくるから先に教室に行っていて」


そう言うと瑠璃は二人の方へと歩いていく。私は少し心配でそれを目で追っていたが、話す内容が聞かれたくないことかもしれないので、瑠璃の言うように先に教室に行くことにした。


いつもの窓。いつもの黒板。いつものクラスメート。由香理の席に花が飾られている以外にいつもと変わらない教室。


由香理が亡くなっても、教室の雰囲気はそれほど変わらなかった。

一部の男子が、ふざけてネタにしているくらいで、あまりその話自体がクラスメート同士の会話に出てくることもなかった。


おそらくみんな、あまりにもショッキングな出来事で、どうしていいのか、わからないのかもしれない。


しばらく自分の席で今日の予習をしていると、瑠璃が教室に入ってきた。その顔は少し曇っている。


そんな瑠璃の元へ私は近づいていく。瑠璃に声をかけようと近づいたが、その行為は別の人間に奪われた。


瑠璃は二人の生徒に教室の外に連れられていく。一人はバスケ部の福浦さん。もう一人は誰だろう?見たことはあるけど名前がわからない。瑠璃の周りで何かが起こっている。それはあまりいいことじゃないように思える。



瑠璃は始業時間ぎりぎりに教室に戻ってきた。

私は瑠璃に話しかけようと思ったが、すぐに担任の九鬼先生が入ってきたので諦めた。


「瑠璃どうしたの?さっきの二人や、正門にいた第一中の二人は何なの?」

休み時間に私は瑠璃に問いかける。瑠璃は翳りのある笑い顔で、か細い声を出して返答してくる。


「な・・何でもないよ・・大丈夫。心配かけてごめんね」

何か隠してると思い、私はちょっと強めの口調でさらに問う。

「何でもないわけないでしょう。困ってるのなら力になるから教えてちょうだい」

瑠璃はちょっと弱った顔をして、諦めたようにボソボソと話し始める。

「ちょっとね・・グループチャットで返事しなかったから。それで直接話に来ただけだよ。内容は大したことじゃないのよ。だから大丈夫だよ」

「何よそれ。チャットで返事しなかっただけでわざわざ来るの?」

「急ぎの用事だった見たい。私は由香理の件で返事する気にならなかったから・・・」


それ以上は瑠璃は何も語らなかった。他校の生徒も混じってるみたいだけど何のグループチャットだろう。疑問には思ったけど私は追及しなかった。

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天使になれるかな RYOMA @RyomaRyoma

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