第91話《害神駆除会社》-10-

 あたしの名前は小島ハツナ。


 強制排泄をさせられ続けられたサイコパス女を一撃でぶっ飛ばした男の子が目の前に現れて、頭の中がサイコーにパニックになっているやや普通じゃない高校一年生だ。



「き、きさま…」



 唇から血を垂らすヒイロが、鬼の形相で男の子を睨みつけている。


 対して、男の子は冷静な面持ちでヒイロを見下ろしていた。



「どうしたうんこ女。霧吹きごっこは終わりか?」



 ぼそっと男の子はヒイロを挑発する。


 男の子は膝を曲げて軽く腰を落とすと、右手を前に突き出して何のポーズをとった。


 拳法?


 わからないけど、空手とか中国拳法みたいな構えをとっているように見える。



「害神使いが! なめんじゃねぇぞ! この世のカスの分際で神と名乗りやがって! ぶっ殺してやる!」



 ヒイロが感情剥き出しになって悪態をついた。


 初めてだ。


 ここまで取り乱して、追い込まれているヒイロを見るのは。



「はっ! なにが隠神様だ。所詮はくたばりぞこなったタヌキどもの成れの果てだろうが! あたしたちは『害神駆除』のプロだ! 神の殺し方なんていくらでもあるんだよ!」



 唇を拭ったヒイロは立ち上がった。


「B-9《ビーナイン》! B-6 《ビーシックス》! 『対神ショットガン』『ヨルダンバレット』をセット!」



 ぱちんっ。



 ヒイロは右手で指を鳴らした。


 すると。



 ばりんっ。



 走行する電車の窓ガラスを割って、大きな物体がふたつ入ってきた。




 な、なに?‼︎


 え⁉︎ え? 人?


 いや、っていうか……。


 誰? この『おじいさん』たち……?



「カシコマリマシタ。オジョウサマ」



 黒いスーツ着た白髪のおじいさん2人が、ヒイロの両サイドに立った。


 おじいさん2人は男の子2人を見た後、片膝を床に落とし、首を垂らして跪いた。



 がしゃん!


 がしゃん!



 突然、おじいさん2人の頭が縦方向に割れた。


 ──は?


 おじいさん2人の割れた頭の中に、脳みそが詰まってなかった。


 機械だ。


 頭の中は、ネジやボルトで繋ぎ止められた金属の内壁が広がっていて、頭の奥から『かしゃっ』と音を立て、おじさん2人の頭の奥から細長い箱が飛び出した。


 

 がちゃっ。


 あたしから見て左側のおじいさんの頭の中から飛び出た箱の蓋が開いた。


 蓋が開いた先から、細長い黒っぽい棒状の何かが迫り上がっていく。


 ヒイロが棒状の何かを掴み、一気に引き抜いた。


 あれは。


 ショットガンだ。


 よく犯罪映画とかで見かける、黒い金属の筒が縦並びにまとまった大型銃器だ。


 右側のおじいさんの箱が開くと、半月状の金属パーツが飛び出て、ヒイロはその金属パーツをショットガンの下あたりにくっつけると、がちっと金属パーツ同士が噛み合う音が聞こえた。


 

 どんっ!


 どんっ!


 どんっ!



 ヒイロが男の子に向かってショットガンを撃った。


 硝煙が銃口と男の体から立ち上る。


 男の子は顔面を両腕でガードし、その場で仁王立ちしていた。


 男の子の胸元から足元にかけて、無数の穴が空いて、そこから血がだらだらと垂れ落ちている。



「……聖水か」



 ぼそっと男の子がつぶやいた。


 にやっとヒイロの口元が歪んだ。



「そうだ。ヨルダン川から汲み取った聖なる川の水よ。四足獣の……異教の神には効果抜群ね」



 ふんっ。


 男の子が両腕をだらりと下げ、鼻を鳴らした。



「話には聞いていたが、なるほど……これが『害神駆除会社』か。神殺しのエキスパートってのは本当みたいだな」



 ぺっ。


 男の子は地面に唾を吐くと、唇を拭って拳法の構えをとった。



「だがな、信仰の自由っていうのは認めろよ。タヌキでもウジでも、神様は神様なんだぜ」


 がちゃ。


 ヒイロがショットガンのポンプをスライドした。

 煙を纏った空薬莢が、ショットガンからくるくると回転しながら地面に落ちた。



「黙れ。神なんてのは、この世にいないのよ」



 どんっ。


 ショットガンの銃口が火を吹いた。


 すると。


 男の子の姿が消えた。


 消えたと思った瞬間。


 ヒイロのショットガンの柄を男の子が握って奪おうとしていた。



「そいつはどうかな?」



 男の子がヒイロにいった。


 ヒイロは驚いた顔になり、次に青筋を立てた憤怒の表情となった。



「なめんじゃねぇぞ! ゴ……」



 ごっ。


 男の子の額が、ヒイロの顔面にめり込んだ。


 まるで粘土みたいに、ヒイロの顔面が歪んだ。


 すごい頭突き……。


 なにあれ。


 やば……。


 鼻血がすごい。


 ヒイロの鼻から噴水みたいに鼻血がすごい勢いで出てる。


 

 どさっ。



 ヒイロは頭突きの衝撃で、後ろ向きにのけぞって床に仰向けになって倒れた。


 完全に失神している。


 男の子はヒイロからショットガンを奪い取ると、あたしに顔を向けた。


 はっとあたしは我に返った。



「あ、あなた誰なの?」



 あたしは男の子に向かって警戒した。


 たしかにヒイロをぶちのめしたけど、この男の子があたしの味方だと決まったわけじゃない。


 誰なの、この人。


 まさか敵?



「真知子から聞いたぜ。お前、クソまみれになったんだってな」



 真知子……え? それってあの真知子さん?


 この人、真知子さんの知り合い?



 ずりっ。



 何かをする音が聞こえた。


 見ると。


 顔面血まみれのヒイロが、息を切らして立ち上がろうとしていた。



「はぉはぁはぁ、こ、このクソ野郎どもが……」



 男の子がヒイロを見て、あたしを見た。


 あたしを見た後、肩をすくめて鼻から息を吐いた。



「しつこい性格なんだな。おまえのツレって」



 いや、ツレじゃねぇし。



 あたしが心の中でつっこむと、ヒイロは立ち上がり、左手を横に伸ばし、ぼそっと「ビーシックス…」とつぶやいた。



「殺神ブレード……セット……」



 がしん。


 おじいさんの割れた頭から、黒い柄の棒が飛び出た。


 床に跪いていたおじいさんはその場から立ち上がり、顔面から飛び出た黒い柄を引き抜いた。


 剣だ。


 それも西洋の騎士が使ってそうな、十字型の鍔で両面刃の大型の剣だ。


 おじいさんは引き抜いた剣の柄を逆手に持ち、ヒイロに剣を差し出した。


 ヒイロは剣を受け取ると、膝を震わせながら立ち上がった。



「こいつはまずいな。ピンチだ。このままじゃやられるな。俺たち」



 そういいながらも、男の子の表情は冷静そのものだった。


 ちらっ。


 男の子があたしを見た。


 え?


 なに?


 あたしに何かやらせる気?



「小島。お前が戦え」



 ──は⁉︎


 急に何言ってるのこの人⁉︎


 

 ばっ。


 

 あたしが驚いた一瞬の隙をついて、ヒイロが男の子の背中めがけて突進した。


 は、はやっ!


 頭突きをまともに食らって鼻血まみれのはずなのに、すごいダッシュだ。


 やばい!


 斬られる!


 そう思った。



 ぐいっ。



 あたしの体が宙を浮いた。



「へ?」



 気がついた時には、天地が逆さまになっていた。


 どうやったのか、あたしにはさっぱりだけど。


 どうやら男の子はあたしの手を取って、思いっきりヒイロに向かってあたしをぶん投げたみたいだ。


 うそでしょ。


 自分で言うのもなんだけど、身長高い分、結構あたし重いんだよ?


 こんな軽々投げられるの? 人って。


 って。


 いやいやいやいや。


 ちがうちがう!


 斬られるってあたし!


 このままじゃ! 


 ヒイロの大きく振りかざした剣に。


 バッサリ斬られるって!



 ぐしゃ!



 鈍く肉が刃物に食い込む音があたりに響いた。



「な……!?」



 ヒイロが目を向いて驚いていた。


 あたしもびっくりした。


 ヒイロの振りかざした剣が、あたしの脇腹に食い込んだと思った瞬間。


 脇腹から大量の『蛆』が湧いて。


 あたしの体を守った。


 このチカラ……。


 蛆神様の能力だ。


 だけど、どうして?



「こんなこともあろうかと思って、死後3日経った野良猫の『死骸』を持ってきた。『生贄』と『シンボル』さえあれば、蛆神様はこっちの世界に戻ってくることができるらしいぜ」



 男の子は服の内側から、黄色いポスターをとりだした。


 気持ち悪い毛の生えたマークが描かれた、あたしがよく知っているあの『ポスター』だ。


 刹那。


 あたしの意識が細かく分散された。


 空中からあたしの体は消えて、けたたましい虫の羽音が電車内に広がった。



To be continued…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蛆神様 有本博親 @rosetta1287

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ