誓剣のクロスクレイモア ~あとがき~

いつき樟

読み切り

 クロコダインみたいな奴を主人公にした小説を書きたい。

 それが、この作品の始まりでした。


 知らない人のために念のため。

 クロコダインとは、少年ジャンプで連載されていた『ダイの大冒険』という漫画に登場する仲間のひとりで、

 作中での立ち位置は、いわゆる壁役、やられ役なキャラクターです。


 魔王軍の六大将軍の1人で、主人公ダイと初めて戦う、中ボスキャラとして登場します。

 そこで、ダイたちの勇者らしい正々堂々とした戦いぶりに心打たれ、卑怯な手を使ってでも勝とうとしてしまった自分の弱さを恥じ入り、敗北した後ダイの仲間に加わる……

 という、なかなか男らしい武人然としたキャラなのですが、いかんせん

『筋骨隆々のリザードマン』

 という外見のせいか、どうしても二軍の壁を越えることができず、最終決戦前に息切れしてしまいます。


 しかし、本気で信じられる仲間に出会ったらトコトンまで力になる一本気な性格と、ストーリーのところどころに差し込まれる含蓄の深い名言に惚れ、

 いつかこいつを中心にしたサイドストーリーとか無いものか、と考えました。

 しかし残念ながら、当時の少年漫画ではウケなかったんですよね、そういうタイプは。


 一応、ラスボスの大魔王バーンを除いて、作中最強と名高い敵役、竜騎将バランが唯一恐れる相手がクロコダイン……

 ていう設定もあるんですよね。

 このバランという男、魔法が効かないオーラを纏っているんですが、純粋な物理攻撃や闘気を練り上げて放つ攻撃には無防備という弱点があって……



 だから真っ先に狙われて倒されてしまうクロコダイン!

 バランの圧倒的強さを見せるために瞬殺されてしまうクロコダイン!

 しかも設定だけで実際にオーラを突き破ってそれが決定打になるシーンは無いんだクロコダイン!

 結局バランを倒したのは主人公ダイとイケメンヒュンケルじゃないか!

 どんだけ不遇だクロコダイン!



 ゆえに、思ったのです。

 漫画じゃ無理でも、小説でならきっとクロコダインみたいな武人が輝くはずだ。

 派手な魔法も、豪快な必殺技も無くていい。

 というか、そんなの文字じゃ書ききれない。

 それよりも、性格とか、生き様とか、そんな要素がきっと重要になってくる!

 それが小説!

 それが活字表現だろう!



 ……こうして生まれたのが、主人公アスラルというキャラクターです。

 愚直で誠実、ときには頑固なほどに信じたものに真っ直ぐ。

 そんな騎士さまが活躍する物語を書けて、個人的には大満足です。


 いや、別にアスラルはゴリマッチョのリザードマンではありませんよ?

 ちゃんと人間です。

 ……リザードマンでも、それはそれで燃えるかもしれませんが。


 と、いうことは。

 主人公がクロコダインなら、敵役は?

 ……そう、敵役カリウス王子のモデルは、ザボエラです(笑)

 もちろん、あんなヨボヨボチビジジイではありません。

 ルックスは、映画グラディエーターのコモドゥス王子みたいなのをイメージしました。


 けれど、やっぱりラストの決着シーンは、マキシマスとコモドゥスの一騎打ちではなく、まさにあのクロコダインとザボエラのやりとりを妄想しながら書き上げました。

 今まで散々他人を利用してきた敵が、最後の最後に誰からも信じてもらえず、その死を悼まれることなく消えてゆく。

 そしてトドメを刺したのは、ずっと利用されていた不器用な脳筋キャラ。

 最高のカタルシスのひとつじゃないかと思うんですよね。


 ……だから、リザードマンとチビジジイじゃないですってば!




 また、この作品のタイトルである『クロスクレイモア』ですが。

 実際にはクレイモアって、そんなに大きな剣ではないんですよね。

 確かに両手剣ではあるのですが、どちらかというと両手剣にしては小ぶりなほうで、強さと速さを両立させるための剣、みたいなものだったようです。

 作中のように、重量と勢いとで相手を叩き斬る! みたいな使い方をするのは、ツヴァイヘンダーなんです。


 けど、

『誓剣のツヴァイヘンダー』

 よりも、

『誓剣のクレイモア』

 のほうが、なんとなく格好いい響きがしたので、そっちを採用しました。


 また、クロスクレイモアという名前そのものは、まんま『ロマンシングサガ2』に出てくる最強の店売り武器、クロスクレイモアです。

 店売りのくせに下手な伝説の武器よりよっぽど強く、2人、3人がかりでぶっ放す無明剣や乱れ雪月花の威力は、ラピッドストリームでやると敵に申し訳ない気分が……

 と、それは置いておいて。


 量産品のクセに最強とか、なんか格好いいと思いませんか!?

 アバロンの武器職人たちが、1000年以上もの歴史の中で受け継いでいった技術の結晶が、伝説級の武器の威力を超えるわけですよ!

 武器固有の特殊攻撃は一切無し!

 ただ使用者の技量こそがすべて!

 その破壊力は、ラスボスすらも粉砕する!


 なんと熱い武器だ……と、感じ入り、タイトル、そして主人公そのものに反映させてしまいました。

 ……著作権とかは、大丈夫と祈ります。




 さて、ひとまずこれにてアスラルの戦いは終わりです。

 本当はこれからもずっとアスラルやナヴィ、リースの活躍を追いかけていきたい気分ですし、一応そのための準備もしていたりします。

 メリカールとの戦いは決着するのかとか。

 ナヴィの力の秘密とか。

 ちょっとだけ出てきた先代さまとか。

 あの赤ちゃんの今後とか。

 なによりナヴィとリースのアスラル争奪戦の行方とか!

 読みたい、書きたいイベントは尽きません。


 けど、

 こうしてみんなは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ

 というエンディングになっても構わないかな?

 とも思うのです。


 100%のベストエンドじゃないかもしれないけれど、

 これから先に待っているのは、きっとみんなにとってハッピーエンドなんだろうな

 って思えるような終わり方にしたいと願い、こういったそれぞれの結末に落ち着かせました。




 最後に、ここまで読んでくださった皆さまに、心から感謝申し上げます。

 もし、これで終幕になったとしても。

 もしくは、新しい物語がはじまるとしても。

 作者の憧れを詰め込んだアスラルというキャラクターが、皆さんの心に何かを残せたのだとしたら、これ以上の幸せはありません。


 ありがとうございました。






PS

 書こうかと思って、さすがに止めたアスラルのNGセリフ


「くっ!? 俺の渾身の一撃が、足止めにもならないのか……ッ!」

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