Lesson05「もふりFinal」

 遊びに興じながらもふりチャンスを逃すような、もふりへの志低き読者は居ないだろう。

 手で頭を覆う、良いだろう。顔回りは短毛であまりもふり度が高いとは言えないが、頬や顎などの綿毛がふわっとあなたの手を包み、やんちゃに飛び出た髭が敏感な指の腹をくすぐってくれる。


 今だ! 腕を押し付けろ!

 顔の次は手を押し付けてじゃれつかせる。これぞ待ちに待ったもふりの王道。こちらから触るのではなく、向こうからこれでもかと抱き着いてくる。最高だ。

 彼らの毛は冬と夏でも触感が違う。もふりならば冬がおすすめであり、ぱっと見て取れる長い毛の間に綿毛を蓄え、よりもふり度が高くなるのだ。


 わざわざ頁を設けてまで説明したが、じゃらしで遊ばせてはもふりチャンスを逃す。

 これは編集者の圧力であり、もふりマイスターの望むところではないとだけ伝えさせてほしい。含蓄あるあなたならば、前2頁はどうにも語りが硬くなっていたのが見て取れるだろう。


 もふりのマイスターを目指す者ならば、多少の傷が増えようともふりを求め、もふりを掴み取る。

 人類の叡智? 知らんなぁ。我がもふり体感にはこの身ひとつあれば良い。道具など不用。


 なに? 編集で削除する?

 横暴と圧制、いや言語統制――、やめたまへ君。


 致し方あるまい。

 いいかね。もふりを極めるには彼らとの親密な関係が不可欠だ。


 我らが糖分に甘みを感じるように、彼らも己がエネルギー源とするタンパク質に甘みを感じる。

 とはいえ、野生ではネズミなど獲物の血中から栄養を得ていた関係上、ただタンパク質を与えるだけでは不十分。

 きちんとバランスを取ったものを与えなければ健康は損なわれ、毛の艶まで失われてしまう。


 コーンなどの穀物を口にする習慣はなかったので、それらを主原料にしている餌では消化不良を起こすから気を付け給へ。


 ああ、それと毛が長いタイプの彼らはもれなく我らのもふりへの欲求が生み出した業の深きものである。

 彼ら自身によるケアでは間に合わないため、必ず我らが責任を持ってブラッシングなど手入れを行うように。


 さて、こんなところか。義務は果たした。


 私はもふりが好きだ。丸くなって寝ている彼らを見守るより、その守られた腹へ顔を埋め、少し頬ずりしながらも包まれるようなもふりに身を任せ、それによって起きた彼らからの攻撃を甘んじて受けながら、そのもふりへ息を吹きかけるのが好きだ。

 無警戒に伸びきっているところへ手を伸ばし、もふりの平原を胸元から股下まで撫で上げ、均していくのが好きだ。

 艶やかな毛並みを撫でつけつつ、時たま毛並みに逆らうことで気ままに荒らすのが好きだ。


 お茶目なちょっかいである。彼らにとっては良い迷惑かもしれないが、もふりこそ我が幸せなので仕方がない。

 ただひとつ。正しい知識を持ってほしい。


 ちょっとした迷惑くらいならまだしも、彼らにとって何が幸せなのかを理解した上でもふりの道を歩むのだ。

 我が愛しの彼女が傍にあった時、私は幼く、今ほどの知識を持ち合わせていなかった。決して彼女にとって良い兄弟ではなかっただろう、と今ならわかる。


 もふりを目指すものよ、彼らにとって良い隣人や兄弟で居るよう心掛けて欲しい。


 それでは、多少最後が乱雑になってしまったが、良いもふりがあらんことを願って。すべてのもふり初心者へこの本を捧ぐ。



   ――もふりマイスターより。

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もふもふが良い。 草詩 @sousinagi

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