終焉(いせかい)から始まる死後型RPG:etc
9アルさん
第1話
しかしこの仕様はこの村のみで他の場所はそれぞれのデザインが施されている筈だろう。
身なりはここに来る前と同じ着古したジャージ姿。
地面を踏みしめると土の感触が伝わってくる素足...
舗装のされていない土が足の裏の痛覚を刺激する。
「ルナにはここら辺言ってほしかったな」
ヘキルはため息を吐きながらこの世界での第一声を発した。
そもそも自宅からこの世界に来るたびにこの初期状態に戻るとかはないと信じたい。
手ぶらの状態であたりを見渡す。
横を見てもルナの姿は見えない。話していた通りに謁見の最中なのだろう。
予定ではあとで合流することになっている。
ヘキナはこの世界に無知極まりないことを悟っている。
人に聞こうと思っても見たところ人がいない。このようなRPGとかだったら初心者プレイヤーの拠点としている場所とかに召喚されると思っていたのだが。
とりあえずここから見える和風の建物の様子を見てみることにした。ルナが来るまでに暇つぶしにでもなるだろう。
足で石を踏まないようにしながら徐々に建物に近づいていく。たとえゲームの中でも怪我を負ったらある程度のペナルティは出てくるだろう。
足の裏から伝わってくる感覚から痛覚は存在しそうだ。HPゲージは見当たらないがHPも消耗されていくのだろう。
「本当にここはゲームの世界だよな。メニュー画面とかなさそうなんだが」
よくある目の前で手をスライドさせるやり方をやってもメニューは表示されない。
一応あたりを見渡しても端末のようなアイテムも落ちていなかった。
もともとメニューがない仕様なのか。そんなのRPGで成り立つのか。
最近のは作りがリアルになってきて現実との区別がつかないほどだ。メニュー画面のように現実リアルとの違いみたいなものがないと錯覚していくだろう。
歩きながら考えていたので気が付くと村の門の目の前まで来ていた。周りには柵と堀で囲まれている。しかし、ところどころが壊された跡があった。
ヘキルは見張りのいない門をくぐり一番近い瓦の家の中に入る。屋根は半分吹き飛んでおり見た目のとおり、人はいなかった。
落ちているものをみても木片や割れた陶器のようなものぐらいしかなく、しばらく住んでいたような感じもない。
この村に何かが襲撃したような様子である。
「廃墟なのか」
ヘキルのようなまだデビューして間もないプレイヤーがこんな廃墟に飛ばされるなんておかしい。
メニュー画面といい、システムエラーとして解釈していいだろう。ルナの知り合いが開発したとか言ってもエラーが起こるのは身近な作品はあてにするもんじゃないものだ。
パキっっ!!
外から何かが折れる音がした。ヘキルは外に注意を向け、壁の裏に身を隠す。
ここはRPG、いつプレイヤーを殺しにくる要素があっても不思議じゃない。
入り口から外を見ようとする前に土間に草鞋が落ちているのを見つけ、拾って履く。素足のヘキルにとっては非常に助かるアイテムだ。
入り口に寄り、覗くように外を見る。向かい合った建物には異常は見当たらない。
振り返ると天井の穴のせいで光が差し込んでいる。照らされた裏口は折れた柱などで塞がっていた。
「無駄に裏口を選ぶより正面から駆けた方が安全か」
ここでモンスターになんかあったら詰みゲーだ。今のヘキルの装備だとスライムにも勝てないだろう。
今度は顔を出して外を念入りに確認しようとする。まず退路の反対側の右から見て...
「おっ」
「へ?」
見ていた方向の逆。左の方から声が聞こえたので振り返った。いたのは黒ずくめの格好をした男だった。
手には剣を持っており、格好も冒険者ぽい。しかしもう一つの手には血まみれの生首が掴まれていた。
たぶんこいつはPKなんだろう。ならばここは。
「おいっ待て!」
ヘキルは村の奥の方へ駆け出す。男は一瞬不意を突かれたように反応が遅れてヘキルを追いかけ始めた。
小屋と小屋の間に逃げ込み奥にあった茂みの中に隠れる。男は茂みに隠れたことに気が付かず、目の前を過ぎていった。
するとへキルの耳には急に能天気な声が響いた。
――――マスター!!聞こえますか?
「その声はルナか...」
このゲームはルナの知り合いが作ったということでグイグイ推され、即日プレイすることになったものである。
それはともかく...
「なんでマスターって呼んでるんだよ。前まではアバターネームで呼んでいただろ」
知り合ったといってもつい一週間前の話だ。日も浅くまだアバターネームのほうが呼びやすかったはずだ。
確かにルナより腕があるのは自負しているがマスターというのは少し大げさだ。
――――いやいや、私のような“
「月読命...」
――――神様の一種ですよ。私、月の神“月読命”は古来の文学にも登場するちゃんとした神様なんですよ。
「ルナ?頭でも打ったのか?」
自分のことを神だと言い始めるなんてあの策士系ルナからにしては考えにくい。
もともとイタイ奴だとしてもわざわざゲームの外から語りかけるようなシチュなんて手が込まれ過ぎている。
――――私は至って正常ですよ。うーん、信じてもらえないことということは一応想定していたのですが“あの世”では何しても驚かせられないですからね。
「ん...?今、あの世って言わなかったか?」
――――あれ?言ってませんでしたっけ?あっ言ってませんね。そこは死者が蔓延り世界をなす死後型RPG『BEYOND THE GRAVE』通称“あの世”です。そうです!そこにいるプレイヤーが元死者ということが分かればここがあの世という証明に...
「じゃあ、まさか、お前のいうこのゲームを作ったというGMゲームマスターって」
――――
――――あっ閻魔大王様!いいんですか?忙しいのでしょ?
地獄の王、閻魔大王。死後の裁判を行い、人々のあの世での処遇を決める誰でも知っている存在。
GMはその閻魔大王。
これはきっと穏やかではなさそうだ。ルナの言いまわし方からして本当のことなのだろう。すぐに信じられるものでもないが。
「じゃあ、俺はルナに殺されたのか」
――――いや、マスターの場合。私の力で睡眠状態の時だけこの世界に来ているだけです。あまり知られていないことなので死者でないプレイヤーだということはできる限り秘密にしてください。
嫉妬心で狩られることも考えられるので、とルナは付け足した。
確かに、死後の世界であるはずの場所で生者ということを話したらどんな目にあうか分からない。
従うに越したことはないだろう。
――――ここは管理室じゃからそこで何が起こっているかは大体把握しておる。今からツクヨミは向かわせるので、何とか生き延びてくれ。詳しい説明は後程じゃ。
「つまり、応援が来るまでに丸腰であの男から逃げ切れということ...」
――――こっちはあまり行わない生者の導入の処理で忙しいんじゃよ。とりあえず埋め合わせはするので、どうにかしてくれぃ。
――――マスター、死なないでくださいね。この世界で死ぬと死んでいる間中は死因の苦しみが継続しますよ。それでは通信を遮断します。
「えっ?ちょっと?」
声があたりを抜けても返事はない。今のはシステム管理室からのメッセージとしてしゃべっていたのだろう。
向こうからは見えているのかもしれないがこっちから話しかけても手ごたえがない。無理ゲーについての意見は届きそうになかった。
それより、今の話が本当ならさっきの男は亡者ということになる。死後の世界でPK。これこそ地獄に行きそうなものだ。
ともかく、ルナが着くまで何とか生き延びておかないと。さっき聞いたデスペナルティが恐ろしすぎる。
今の持ち物はジャージ上下、草履、足元に落ちている枝を含めた3種ぐらいだ。
もう少しあの2人は対策のようなものをしてくれてよかったんではないか。
茂みの間から正面をみてもあの男が来る様子はない。村は広くないので念のために移動した方がいいだろう。
「行くならやっぱり村の入り口だな」
茂みの向こうに人がいないことを確認してから音を立てないように立ち上がる。
その時ヘキルは悪寒を感じた。背後によくないものが存在するような感覚。恐る恐る後ろを振り返る。
「ヒィッ!!」
あの男は後ろにいた。手に持っている剣でヘキルの首を拘束する。ヘキルは動こうにも動くことが出来ず何も抵抗することが出来ない。
あ、終わった...
急に訪れた人生の終焉の予兆の中、男は口を開いた。
終焉(いせかい)から始まる死後型RPG:etc 9アルさん @19zoNomiki
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