第7話
二匹の怪物が死んでいました。
後日報告された記録はそんな一行目から始まっていた。
フォルトは街をほとんど破壊し、多くの人間が死んだ。
バルクロックはそれに立ち向かい、そして死んだ。でも、死ぬ前に、フォルトの喉元に食らいつき、そして今度はそれを離さなかった。
バルクロックの遺体はわたしが引き取り、彼の先祖が眠る墓に埋葬した。
何が良かったのか、未だにわからない。本当は正解なんて無いことはわかっている。でも、彼は彼として生きて、そして死んだ。わたしもわたしとして生きて行こうと思う。彼に言った言葉を、今はわたしがわたしに語りかける。正しくなくたって良い。理解できなくたって良い。ただ生きていくことしか出来ないのだ。
目の前には荒野が広がる。彼が生き、彼が眠る荒野だ。
「ご婦人、わざわざ寄り道したけれど、ここに何が有るっていうんだい?」荷馬車の前から御者が聞く。
「今はもう街はないし、住んでいる人なんてだれも残っていないですぜ」
「ええ、知っています。ただ昔この近くに住んでいたことがあって。それでちょっと懐かしくなって。この子にも、ここの景色を見せてあげたいと思ったんです」
「はあ、なるほどねぇ」
わたしは腕の中で眠る我が子を抱き直す。この子はどのような人生を歩んでいくのだろうか。多分多くの障害が、この子の前に立ちふさがるだろう。ときには打ち勝てず、暗い夜を過ごすだだろう。ときには迫害され追放されるだろう。幾千もの正しさがこの子に石を投げつけるだろう。でも、決して自分として生きることを諦めなかった彼のように、つよく、そして優しく生きていってほしいと思う。
そよ風がわたし達の頬を撫でた。我が子の三角形の耳にそっと囁く。
「生きるのよ。どんなことがあっても」
目の前には荒野。人のいない荒野。ここにあるのは自由だけだ。
そうここは、獣人たちのいるところ。
獣人たちのいるところ 太刀川るい @R_tachigawa
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