第18話 雪が止んだら
アネットが気を失っている間に、トリスタンはアーツ軍を退けていた。オウエンが目覚めないアネットの側に控えていた以外は、全員でアーツ軍を迎え撃った。
ちらついていた雪も止み、アネットがもう一眠りした今ではすっかりいい天気だ。ただ、どこを見ても外は雪で真っ白である。その事にアネットはまた驚いた。窓の向こうでは、エトナとアンが雪玉を投げ合っている。
「さっきまでこんな気候じゃなかったのに」
そう呟いていると、湯気の立つマグカップを2つ携えたオウエンがやって来た。そのままアネットのベッド脇の椅子に座ると、マグカップの一つをアネットに寄越した。
「先ほどの戦いで、エトナが雪女を召喚した。そのせいだ」
雪女が現れると、あっという間に辺り一万が猛吹雪になった。あまりの雪の勢いに、アーツ軍は撤退を余儀なくされたという。
実際に、アーツ軍と見られる魔物の凍死体がアネットのいる建物の付近で何体か確認されている。遭難するほどの大雪では、戦闘どころではない。
「それで、こんなに」
アネットはマグカップを両手で包み込むようにしながら一口飲んだ。暖かい茶が染み渡る。もう一度窓へ目を向けると、雪合戦はますます激しくなっていた。
アンは雪玉にそれぞれ魔力を込めて、投げるのにも風の魔法を使い始めた。飛んでくる雪玉がいちいち火の粉や雷を含む上にとんでもないスピードで飛んでくるのだから、エトナはたまったものではない。
さらにアドルフとソウジロウもアンに加勢すると、エトナも負けじと魔力を練り上げ始めている。
「身体は、もういいのか」
「うん、ありがとう。大丈夫」
オウエンの心配そうな顔に、アネットはにっこり笑って答えた。
もともとわからない事だらけだ。エルフと仲間で見解が食い違うのは気になるが、判断するには材料がまだ足りない。捨て置くことはできないが、すぐに答えを出す事もできない。となれば、アネットはとりあえず保留しようと思った。
「元気なものだ」
オウエンは呆れ半分、微笑ましさ半分、といった具合で雪合戦に興じる面々を眺めた。
いつのまにか棒人間のような物が数体いた。それがエトナと共に雪玉をせっせと作っては投げている。雪玉自体は大した威力ではないものの、数とスピードはアン陣営を遥かに凌いでいる。
両陣営とも一歩も譲らず、双方共に雪まみれである。
アネットは紅茶をもう一口飲んだ。受け取った時よりも少し冷めて、ちょうど飲み頃だ。
「やれやれ、あいつらはどこまでやる気なんだろうな」
そう言いながらイーノックがやって来た。アネットが窓の外を見ると、ソウジロウが飛んでくる大量の雪玉を、その辺りで拾った枝で全て切っていた。どの雪玉も真っ二つである。
両陣営とも、既にびしょびしょだ。そろそろ止めに入らないと誰かが風邪をひきそうだ。
「大した腕だな。あれだけの動きができるとは。ソウジロウと言ったか」
オウエンが感嘆のため息をもらすと、イーノックは嬉しそうに顔を緩める。
「そうであろう。俺の部隊の──いや、国一番の使い手だ。あやつに切れぬ物はないぞ」
「そうか。ぜひいつか手合わせ願いたいものだ──」
「えっ? あれはなに?」
アネットの素っ頓狂な声にオウエンとイーノックが振り返ると、アネットは空を指さした。緑色に光る何かが飛んでいる。
「あれは…もしや、先のエルフか」
イーノックが目を凝らして、エルフと見られる光を追う。それは既に遥か彼方の光の粒になっていた。外で雪合戦に興じていた仲間達も、皆一様に光が飛んでいった方角を見ていた。
「何と言う事だ。エルフがいなくなったというのか。しかしどこへ…」
オウエンは渋い顔をしてため息をついた。魔王軍から守ったはずが、エルフ自ら出て行ってしまった。
エルフは人の幸せを運ぶ象徴だ。拠り所を取り戻すべく、一行は探しに出る事にした。
目が覚めたら 豊福 れん @rentoki24
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。目が覚めたらの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
子連れフロリダ生活記録/豊福 れん
★20 エッセイ・ノンフィクション 完結済 110話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます