第34話 宣戦布告
ヒジリの全員と戦う宣言で開幕式は終わった。
観客席からは色々な声が聞こえてきていた。
「いくら銀髪のバーサーカーでも一気に全員は無理だろう」
「さすが銀髪だ。自信があるんだな」
「あんな小さな女の子で怪我もしてるのに勝てるの?」
「銀バーが負ける所、見てみたいな」
実際100人以上と戦うのだ。
厳しい戦いになるのは目に見えてわかる。
もしかすると能力者や魔法が使える者だっているのかもしれない。
本当に大丈夫なのだろうか?
そんな事を考えていると自分の右手から声が聞こえてくる。
「見ててくれた~♪
あたしかっこ良くない?」
「ヒジリ!あんな事、言っちゃって大丈夫なのか?」
「参加者全員、見てたからダイジョブ~♪」
「お願いだからムリだけはしないでね」
「もっちろ~ん♪サクっと倒して終わらせるからね」
「って言うかヒジリ、プロポーズされていたんだね」
「・・・・・・・」
ヒジリからの返事は無かった。
聞くタイミングを間違えたか???
「ん~~~...まあそう言う事になるね。
でも一回も”はい”って返事してないから、安心してね」
「そっか~。わかったよ。ありがとうね」
「どういたしまして。それじゃあたしはそろそろ行くから」
「もう一回、言うけど無理しないでね!!!」
「もちろん!怪我すらしないから!ちゃんと応援してよね♪」
「了解!しっかり応援するよ!!!」
そう言って
「そうか。返事はしてないか」
自然に顔が綻ぶ。
それを見ていたリーネとキューブが気持ち悪いと言っていたが聞こえないフリをした。
そんなやり取りをしていると闘技会場からゼロの元気な声が聞こえた。
「みんな~~!元気~~~?
私は元気だよ~~~♪
テンションは上がってるか~~???
早くヒジリちゃんを見たいか~~???
そろそろ始まるけどみんなテンション上げていこうぜ~~!!」
昨日と同様の歓声が上がる。
「うんうん!
上がってるね~!!いいよいいよ~♪
それじゃ、そろそろ参加者呼ぶよ~~!!!
みんな~出ておいで~~~!
そして戦っちゃえ~♪」
ゼロがそう言うと花火が上がり、闘技会場にぞろぞろと参加者が出てきた。
屈強な男。
身軽な女。
老練な男。
鱗で体を覆われている
犬っぽい耳が頭の上にある獣人。
いかにも力自慢な種族が我こそはと登場した。
「ヒジリはまだ出てこないな~」
リーネとキューブが声を合わせてそう言うと、
一番最後に、黒の
右目は碧く紫がかった瞳。
手入れの行き届いてるとわかる綺麗な銀髪を揺らしながら歩いてくる人影が。
今日一番の歓声が上がる。
会場全体が揺れるくらいの歓声。
その歓声に応える様にヒジリは右手を振り、闘技会場の中央で足を止め、
ヒジリは深呼吸を一度し、澄んだ声で宣言した。
「今回も優勝しちゃうから~~!!!」
ヒジリは他の参加者に睨みつけられても、会場全体に笑顔で手を振っていた。
闘技会場に全員が出揃ったのを確認したゼロが開始の合図をする。
「始める前にルールの確認するよ~!
1つ!武器の複数所持は禁止~!
2つ!観客を巻き込んじゃダメ~!もちろん私もね♪
3つ~!必要以上の攻撃は禁止!死んじゃうからね。
4つ!殺意ある攻撃も禁止~!
最後に!試合終了後に仕返し禁止!
以上、この大会のルールだよ~!
破ったら怖~い王族騎士団に捕まっちゃうんだからね♪
それじゃみんな死なないようにガンバってね~。
いっくよ~♪
その合図と共にヒジリが
いつもは肩から少し出るくらいの翼だが、今日は全身を翼で一度包み、大きく開かれる。
その神秘的な光景に観客は目を奪われていた。
「あれ?
リーネにそう聞くと、
「私の魔法で目立つようにしておいた」
とニヒヒと笑い楽しそうにヒジリを見ている。
リーネの顔を一瞬見て、ヒジリに視線を戻すと闘技会場内の光景が違っていた。
10人以上がすでに倒れて、会場整備員に運ばれている。
その会場整備員の間を縫って、銀色の光が駆け抜ける。
銀色の光が通り過ぎた後には、人がバタバタと倒れる。
あっと言う間に半分以上の参加者が倒されていた。
「は、ははは。ヒジリってやっぱり強いんだね。
一回だけ目で追えた事があったけど、今はもう見えないよ」
ボクがそう言うと、
「まあ私の魔法の追加効果で身軽さが上がっているからな♪」
完全にドーピングされてます。
ただでさえ早いヒジリに魔法の追加効果。
そりゃ目で追えない。。。
ひきつった笑顔で会場に目を戻す。
すでに2/3以上は倒されたのだろう。
闘技会場内は数えるのが楽な位まで人数が減っていた。
「残り18人ですね」
キューブがそう言うと、立っている人がバタバタと倒れ、
18人になっていた。
開始から10分と経たずに100人以上いた参加者が残り18人。
圧倒的な力でねじ伏せたヒジリ。
銀色の光が闘技会場の中央で止まり、ヒジリがこちらを見て手を振っていた。
「どう?あたし強いでしょ?」
「強いのは知ってるけど油断すると危ないよ。ほら!後ろ!!」
そう言う前にヒジリの右手が少し動き、後ろから襲って来た男2人が倒れる。
「油断なんてするはずないじゃない♪残り16人サクっと倒してくるからね」
再び闘技会場内に銀色の光が駆け抜ける。
完全にヒジリ無双だった。
次々と倒れていく参加者。
残り15人、14人、13人...9人。
ついに参加者が1桁まで減った。
ヒジリの動きが止まり、背中にある大きな翼を広げ、空に人差し指を上げた。
「それじゃ、ラストスパート~♪」
言い終えると同時に左右から攻撃を仕掛けてきた大男の体が宙に浮き、
ドサリと鈍い音と共に男2人が地面に落ちる。
「残り7人」
背が高く黒のローブを纏っているのが4人。
姿勢を低くし、素早く動き回る盗賊風の女性が1人。
全身毛で覆われ、鋭い牙の獣人が1人。
杖を両手で持ち、闘技会場の端で震えている小さな女の子が1人。
最初に仕掛けたのは盗賊風の女性だった。
ヒジリよりは遅いが、一般の人では目で追えないスピードで足元目掛け、
両手に持った小さな曲剣で斬りかかる。
ヒジリはそれを難なくジャンプで避け、そのまま女性の頭を踏付け失神させた。
少し間を置いて獣人が鋭い爪を出し、真正面から向かっていく。
ヒジリは爪の動きを見切り、自分の掌と獣人の掌を合わせる形にし、ニコリと笑った。
バキッ!!!
獣人の爪は見るも無残に地面にパラパラと落ちて行き、風に吹かれて何処かに飛んでいった。
「降参です」
獣人はガクリと膝を地面に着き、リタイア。
「残り5人」
ヒジリは右手を出し、握り拳を作った。
黒のローブを纏った大男達は動く気配がまったく見えなかった。
会場の端では、カタカタと震えながら両手でしっかり杖を持っている少女。
動きそうも無い5人を見渡し、ヒジリは小さく頷き、両足に力を入れようとした瞬間...
「ご...めん...な..さい」
会場の端から少女が蚊の鳴く様な声で呟いた。
「
きゃ~!!!と悲鳴が闘技会場に響いた。
悲鳴が上がった方に目をやるとヒジリの足元から大小様々な蛇が、
ウネウネと沸き出していた。
ヒジリは正に蛇に睨まれた蛙の様な状態になり、動けなくなっていた。
顔からは血の気が引き、今度はヒジリがカタカタと震え始める。
それを見ていた黒のローブの大男達が一斉に、ヒジリに向かってゆっくりと歩き始めた。
「ヒジリ~~~!!」
無意識でヒジリの名前を叫んでいた。
「ち、違うの」
指輪から小さな声でヒジリが語りかけてくる。
「あの女の子の両親が捕まってるの。
それで無理矢理、大会に出されて困ってる。
本当は戦いたく無いって。
でもあの子に罠が仕掛けられていて、あたしを攻撃しないと発動しちゃうみたい。
その罠が発動するとどうなるかあの子は見せられた。
そしてあたしもさっき見せられた...
ハツキ。お願い出来る?」
「オッケー!もう少し我慢出来る?」
「蛇は別に大丈夫。たださっきの悲鳴は光景...
罠が発動した時の光景を見せられたから...」
よほど残酷な罠なのだろう。
時間が無い。ボクは急いで能力を発動させる。
「
視界がモノクロになる。
少女に視線を移すとそこには確かに罠が仕掛けられていた。
罠は頭・首・胸・両手足。
残酷な罠の仕掛け方だった。
・・・
・・・ 対象:
・・・ マジック・トラップは消滅のみです ・・・
・・・ 複数ありますが全て同時に消滅します ・・・
・・・ 発動確認 YES・NO ・・・
こんな残酷で腹が立つ罠はすぐに消してやる!!
「YES」
会場の端に居た少女が少し光り、罠が消滅したのがわかった。
それを確認したヒジリが目に追えないスピードで少女に駆け寄る。
「もう大丈夫。あたしが一番信頼してる人があなたの罠を解除してくれたから」
「ホ...ント...?」
「うん。だからもう大丈夫だよ。こんな事したくなかったのよね」
「う...ん...イタ...いの...キラ..い」
「これが終わったらあなたのお父さんもお母さんも助けるから心配しなくていいよ」
少女は何も言わず小さく頷く。
少女の足元には小さな涙の跡がポツポツと増えていく。
ヒジリは少女の頭を優しく撫で、黒のローブの大男達の方へ向きを変えた。
少女は蚊の鳴く様な声で「リ...タイ...ア..」と呟き会場整理員に手を引かれ会場を後にした。
「あの子の罠仕掛けたのアンタ達なんでしょ?」
ヒジリが大声で叫んだ。大男達はなにも語らない。
不気味なほど静かで、怖いほど隙が無い。
何も語らずヒジリに向かって歩き続ける。
ゾロリゾロリと距離を縮める。
ヒジリは一瞬、後ずさりしたように見えた。
しかし次の瞬間、銀色の光が大男達に向かって行った。
パーンと言う音が静まり返っていた闘技会場に響いた。
ヒジリの左腕が1人の大男の頬を掠め、黒のローブが微かに動く。
黒のローブがズルリと落ち、大男の顔があらわになった。
下顎から上に鋭く突き上げる2本の牙、頭には太く天を突き刺すかのような2本の角。
2対の牙と角、そして燃える様な紅色の目。
この世界で最強であり、頂点である
ヒジリの動きが止まった。
今までこの世界にあまり出てこない存在。
ほぼ幻と言われている種族が目の前にいるのだから当然だった。
たぶん残りの3人も皆、
ローブを取った鬼が身動きの取れなくなったヒジリに、
いや会場に居る全ての人に話し始める。
「今日は挨拶に来ただけだ!
我ら
リザーヴ様はもうお前達に呆れ果てている。
そのため一度、
少し前、世界の片隅にある小さな町を挨拶代わりに消してきた。
これが我々の宣戦布告と取ってもらって構わない。
お前達にはもう選択の余地は無い。
滅べ!!!
この世界はリザーヴ様、そして我々、
これ以上、もう汚すなよ」
そう言って足元に魔法陣を出現させ、姿を消した。
静寂と言う硝子が割れたかのように、悲鳴やら怒号が会場に響き渡った。
瞬く間に会場から人が去って行った。
逃げ場なんてどこにも無いのに。
会場には、王族、王族騎士団、ゼロ、親を人質に取られている少女、
ヒジリ、リーネ、キューブ、そしてボクしか居なくなっていた。
あれだけ騒がしかった闘技大会。
こうして今回の大会の幕は閉じた。
世界を殲滅させると宣言した
簡単に一つの町を破壊し、消滅させる力。
早くヒジリが紋章を継承し、リザーヴを倒さなくてはと改めて思う。
空には傾いた太陽と、皮肉にも綺麗な三日月が顔を出していた。
ボクの彼女はバ~サ~カ~ 髙橋 二樹 @say0819
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