第33話 開幕式
大会当日の朝、ヒジリはいつもより早く目が覚めた。
「ん~~!目が覚めちゃった。
まだ暗いなぁ~。
よし!今日はもう起きて体を動かしておこうかな」
ベッドから飛び起き、着替えをして部屋の外に出る。
浮遊石を見て、
「うん!あの紙無いと下に行けないんだ。
お風呂に入って体を温めるだけでいいや...」
出鼻を挫かれ気落ちしたが、湯船に浸かると落ちた気分も上がってくる。
「なんかイヤだな。あの人が来るのか...
めんどくさい。そして何回戦わないとイケないんだろう」
ブクブクと泡を立て、顔を湯船に沈める。
外から鳥の鳴き声が聞こえ始めた。
「そろそろみんなの朝ご飯作ろうかな♪」
ヒジリはそう言って、浴槽から出て朝食の準備に取り掛かった。
「みんな起きて~~!元気が出るご飯できたわよ~!!!」
ヒジリの大きく元気な声で目が覚めた。
「ヒジリ早起きだな~。
大会当日っていつもこんな感じなのかな?
それにしてもいい匂いだ」
リビングに行くと、テーブルに乗り切らないくらい料理の数々。
「おぉぉ!朝から豪華だね!必勝祈願?」
「そうだよ~♪どうせ賞金はあたしの物だし、豪勢にパァ~っとね♪」
「そう言うのって終わった後にやるんじゃないの?」
「ん?終わった後もやるよ♪」
「ヒジリは大会前はいつもこんな感じなの?早起きしてご飯をたくさん食べるみたいな?」
「違うよ。今日はたまたま早くに目が覚めちゃって、少し走ろうかと思ったら、
下に行けなくてさ...」
「あ~~そうか!羊皮紙必要だもんね。ヒジリの分もあるか聞いておくよ」
ヒジリはうん!と頷き
「さあ、リーネも起きて来たし食べましょう」
と料理に手を合わせた。
「そう言えば、ボクまだ対戦表?って言うの見てないんだけど」
「あ!見てなかったの?初戦は...
たしか~...
あたし♪」
「辞退します...」
「え~~~ちょっとくらい戦おうよ~!!!」
「ヤダ!ムリ!!まだ死にたくない!!!」
ぷーっと頬を膨らませ不満そうなヒジリを見て、リーネがふふっと笑う。
「ヒジリの一勝は確定だな」
さすがにヒジリと戦って勝てる気がしない。
「ヒジリの体力を温存する為にもボクは辞退する!」
言い訳をし、食べ終わった食器をこそこそとキッチンに運んだ。
片付けが終わり、全員が持ち物のチェックをする。
ヒジリは新品の
体を動かし、着心地を確かめる。
リーネとキューブは皮袋にたくさんのお菓子を詰め込み、
嬉しそうに笑っている。
「よし!出発だ~!!!」
いつもの願掛け。
手を重ねて、お~!と声を合わせ手を上げる。
リーネの魔法陣であっと言う間に王都ブリエヴィルに着いた。
昨日、来た時も人は沢山いたが今日はそれ以上だった。
毎月行われる大会。
ヒジリ曰く、今月はいつも以上に多いらしい。
パーン!パーーン!!
王都に隣接されているお城の方から花火が上がった。
街中に設置されているスピーカーから放送が流れる。
「まもなく闘技大会が開催されます。
出場者の皆様は大会窓口までお集まり下さい。
繰り返します...」
「そろそろ始まるって」
「ちょっとのんびりしすぎたわ!急ぐよ」
リーネの返事を待たず、ヒジリがお城の方へ掛けていく。
慌てて、リーネと共にヒジリの後を追った。
お城の近くに着くと、大きな闘技場がある。
古いながらも歴史を感じさせる円形の建物。
中に入ると、一層その歴史を感じた。
ヒビは入っているが螺旋の彫刻が施されている柱。
壁には神々の闘いを描いた絵。
天井には天使が彫りこんであった。
思わず見入っていると、後ろからドンと押され転びそうになる。
「邪魔だガキ。そんなところに突っ立ってんじゃねえよ」
と言われスッと道の端に避けた。
リーネは、何だアイツは!と怒っていたが、
確かに道の真ん中に立っていたボクが悪かったのでリーネの怒りを落ち着かせる。
「どうしたの?なんかあった?」
ヒジリが登録手続きを終え、こちらに歩きながら聞いてきた。
「いや、なんでもない。ボクの辞退もしてきてくれた?」
「やっておいたよ。
良く考えたらあたしハツキの前に立ったら、
恥ずかしくなって逆にギブアップしちゃうかもしれないから、
辞退してもらって良かったのかも~」
うんうんと頷きながら4人で奥へと進んだ。
奥まで進むと闘技大会が行われる場所と、観客席への道が別々になっており、
そこでヒジリが足を止めた。
「あたしはこっちだから~♪
ハツキとリーネとキューブはそこの階段上っていけば、観客席に行けるから。
あと一番前の見やすい場所も取って置いたからそこに座ってね。
応援ヨロシク~~♪」
そう言って笑顔で手を振り、闘技会場に向きをクルっと変えた。
綺麗な銀髪が、闘技会場から差し込む太陽に照らされキラキラと光っていた。
「ガンバれよ~」
と3人で声援を送るとヒジリは振り向かず「任せて~♪」と返事だけした。
リーネとキューブで観客席に行くと、闘技会場が一番見やすい場所に、
張り紙があった。
~ハツキ~ ~リーネ~ ~キューブ~
うん。わかりやすいね。ありがとう。
いつこんなの準備したのだろうか?
でもこう言う気遣いが本当に嬉しい。
周りを見渡すと観客席が満席に近い状態だった。
空いている席には荷物やら張り紙があるのですでに満席なのだろう。
客席のまわりの通路にも沢山の立ち見の人がいる。
「すごい人だね」
「うむ。すごいな」
「人ってこんなにいるものなのですね」
ほぼ同じ意見だった。
すると隣の年配の紳士風な男が話しかけてくる。
「そりゃ銀髪が出てくるから人も多いさ」
「銀髪のバーサーカーって人気なんですか?」
「人気も人気、大人気だ。あの可愛さに似合わない強さ。
王様も嫁にするって聞かないくらいだからな」
「嫁???そうなんですか?」
「お前は何も知らないんだな。銀髪が初参戦、初優勝した時に、
王様がプロポーズしたんだぞ。その後、優勝する度ずっとだ」
「それでアイツはなんて言ってたんですか?」
「なにも言わず去って行ってたな」
その言葉を聞いてなぜかホッとした。
でもヒジリはボクを護るって決めてなかったらどうしていたんだろう?
王様のプロポーズを受けていたのだろうか。
再び不安に襲われる。
「そろそろ始まるぞ」
リーネが声を掛ける。
「会場のみなさ~んお待たせしました~!
そろそろ闘技大会はっじまっるよ~~~♪」
頭の上にはウサギの耳がある若い女の人が闘技会場中心で話し始めた。
その言葉に会場が揺れんばかりの歓声が上がる。
「お~~!盛り上がってるね~♪いいねいいね♪
出場者もテンション上がっちゃうね~~~!
今回の進行役はみんなのアイドル、ゼロちゃんだよ~~♪」
さらに歓声が上がった。
知らん。ゼロちゃん知らん。
隣のおっさんもやたらテンション高いぞ。
紳士風は、やはり風だったな。
「はい!お静かに~~~!
今回は観覧試合だから王様の話もあるよ~~。
それでは我がブリエヴィルの王、
ヴェリエ=フォン様から開幕の挨拶お願いしま~す♪」
対面の観客席から声が聞こえた。
そこには魔法で防御壁が張られているのか、薄い膜が張ってあるのが分かる。
「皆の者よく集まってくれた」
観客席の一番高い所にある大きな魔法鏡に1人の男が映し出される。
その男は若く、長身、金髪、整った顔立ち、品格の高さが目に見えてわかる。
所謂、イケメンと呼ばれる”種族”だ。
「今回は久しぶりにヒジリ=ブラン=エールが参戦してくれた。
余は嬉しいぞ。
今回もその可憐で美しい戦いぶりを期待してるぞ。
そしてそろそろ我が妃になるのだ」
その男は爽やかな笑い声で話を締めた。
「ハツキよ...敵は強いぞ...」
リーネが残念そうな目で見つめてくる。
「まあヒジリが決めることさ」
強がって気にしてない感を出す。
少し落ちた気分で会場に目をやると銀色の光がチラチラしていた。
ヒジリが王様の話を聞かずにずっとこっちに手を振っていた。
それを見てホッとした気分になり手を振り返す。
「ハツキよ。良かったな」
そう言ってリーネが肩をポンと叩いた。
手を振るヒジリを眺めているとマイクを持ったゼロが再び話始めた。
「さ~!王様の話も終わったからそろそろ始めるよ~。
その前に王様からの命令があったから実行します。
ヒジリちゃ~ん♪」
急に名前を呼ばれビクっとしたヒジリを見て吹き出しそうになる。
「ヒジリちゃんに今回の大会の心意気を聞きたいな~」
はいと言ってマイクをヒジリに渡す。
「え!?え!?」
意表を突かれヒジリはマイクを持ったまま周りをキョロキョロし始める。
そんなヒジリを見てバーサーカーコールが上がる。
バーサーカー!バーサーカー!バーサーカー!バーサーカー!
あ!これヒジリ完全にキレるやつだ...
そんな事を思っていると。
「うっさ~~~い!!!!
バ~サ~カ~言うな!!!!
あたし今、と~~~~っても機嫌悪いのよ。
勝手に妃になれとかさぁ?バ~サ~カ~とかさぁ?
うん!決めた!!!
ヴェリエ様、聞こえますか~??」
完全にキレてますね。
そしてとてもイヤな予感がしますよ。
たぶん大丈夫かとは思うけど...
「なんだ?ヒジリ=ブラン=エールよ。
妃になることを決意したのか?」
「なりませんっ!大体あたし、スキな人がいるし!!!」
歓声が一瞬にして収まる。
会場に静寂が訪れる。
「うん!そうあたしにはもう決めた人がいるので妃にはなれません。
そして今回、あたし対全員の特別ルールに変更してください」
少しの静寂の後、大きな歓声が上がる。
「あいつ何言ってんの?そしてなにやってんの...」
名前を言われたわけでもないのに恥ずかしさに顔を下に向ける。
「ヒジリはやはり面白いな♪」
リーネとキューブは楽しそうに笑う。
「ヒジリ=ブラン=エールよ。
お前は怪我をしているのではないか?それでも勝てると?」
「ええ!構いません。まあハンデですよ♪あたし強いですから♪」
ヒジリは眼帯を触り笑顔で答える。
「うむ、良かろう。
今回はヒジリ=ブラン=エール対参加者全員の特別ルールにする。
もしヒジリ=ブラン=エールが負けた場合、賞金も頭割りだ。
そうだな。賞金も500枚にしよう。どちらが勝っても賞金500枚!
そして余は諦めんぞ!!!」
一気に会場の温度が上がった。
ヒジリはゼロにマイクを渡し、ボクの方に向き直し、
親指を立てニコリと笑った。
パーン!パーンと試合開始を知らせる花火が上がる。
ヒジリ対参加者全員。
ボクは会場の隅で一瞬、笑った黒のローブの人影が気になっていた。
「何事も無ければいいんだけど...」
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