第32話 大会前日
大会前日、ボク達は王都ブリエヴィルに来ていた。
キューブはギルドの仕事があると言う事で置いて来た。
「う~~!
私も行きたいのですが我慢してお仕事をします。
しばらくまたお休みしなくてはならないので今日中に全部片付けます。
明日は必ず行きます」
そんな事を涙目で言っていた。
さすが王都。
人が多い。種族も多い。お店も多い。
口を半開きにし、回りを見渡していたらヒジリに、
「恥ずかしいから!子供に笑われるわよ」
半目で哀れむような顔で言われた。
「しょうがないじゃん!こんなに大きい街見たこと無いし。
ほら見てヒジリ!ケモ耳少女!!尻尾モフモフ」
猫の様な耳とモフモフの尻尾を持つ少女が目の前を通り過ぎる。
少女を目で追っていると、首の辺りに痛みがある様な視線を感じる。
「へぇ~!ハツキは女の子なら誰でもいいんだね~。
護ってあげたくなっちゃった?」
ヒジリに体を向き直し、直角になるくらい頭を下げる。
「すみません!珍しかったんです。
ボクが居た村にはいませんでしたし、本当に珍しかっただけなんです」
ヒジリは軽蔑するような、人では無いナニカを見る様な視線をぶつけてきた。
「ヒジリそろそろ許してやれ。ハツキも珍しいと言ってるし。
なっ?」
リーネが見兼ねて助け舟を出してくれた。
「リーネがそう言うならしょうがないな。
まったく~」
そう言いながらヒジリは大会の登録会場である、
中央噴水広場に向かう。
ヒジリの後ろを急いで追いかけようとすると、
リーネが背中をポンっと叩き、
「女の嫉妬は怖いぞ~」
と片目を閉じ小声で呟く。
「以後、気を付けます」
とボクも小声で返す。
「何やってるの~?置いてくよ~」
と大声で叫ぶヒジリの元にリーネと共に駆けて行った。
中央噴水広場に着くと人がごったがいしていた。
傷だらけの鎧を身に着けている屈強な男。
細身だが隙が無い男。
ローブで全身を覆い、男か女かすら判らない人。
明らかに戦いに向いてないですよね?って位、露出の多い女。
人間から亜人種、男性から女性。
色々な人間が受付前に集まっている。
「うわ~混んでるね~。
そして色々な人がいるんだね~」
思わず見たままの言葉が出る。
「あたし我慢するから、ハツキもリーネも何も言わないでね」
そう言うとヒジリは受付前に1人で歩いていった。
どう言う事だろうね?とリーネと首を傾げる。
しかしヒジリが言った意味をすぐに理解した。
ヒジリが受付に着くと悲鳴に似た声がそこいら中から上がる。
「うわ!銀髪のバーサーカーだ」
「今回、俺出るの止めようかな」
「こりゃオッズ一気に変わるな」
「バーサーカーって言うわりに小さくてかわいいな」
「銀髪のバーサーカー様よ。サインもらえるかしら?」
「銀髪のバーサーカーって本当に女なんだな」
「なんか左眼に眼帯してるけどケガ?」
「本当だ!なんか勝てそう」
「最近見なかったけど生きてたんだ」
歓声や悲鳴、罵声が飛び交う。
「あ~~。そういやヒジリって二つ名で呼ばれるの嫌がってたな」
「そうなのか?私はイイ二つ名だと思うのにな」
喧騒の中から澄んだ声が響き渡る。
「ヒジリ=ブラン=エール。
ここに参加する事を誓う!!!」
おおおおお!と大きなざわめき、歓声、悲鳴がこだました。
どいて!とヒジリが言うと、
まるで波が割れるかの様に人が左右に分かれ、道が出来る。
綺麗に分かれた道を颯爽と綺麗な銀髪を揺らしヒジリが戻ってくる。
戻ってくるなりヒジリは大きな溜息を付いた。
「はぁぁぁぁ~~~~。
疲れた。これだからイヤなのよ。
こんなカワイイコを捕まえてバ~サ~カ~って」
「まぁ強ち間違いではな...」
ゴスッ!
体が少し宙に浮く。
「ハツキ君?少し黙ろうか???」
呼吸が出来なくなり声が出ず、首をコクコクと上下させ自分の意思を伝える。
不機嫌な所に余計な事を言ってしまったと後悔した。
「登録は終わったし、参加者でも見るか?」
リーネが呆れた顔で次の予定を提案する。
「そうね。でもまだ登録時間中だから少しこの街を散歩でもして時間潰しましょう」
そう言うとヒジリは店がたくさんある方へ歩いていく。
「お前は少しも勉強しないのだな」
リーネが背中をポンと押し、ヒジリの後を追って行った。
「はぁ~死ぬかと思った。
昨日、ヒジリが言っていた切ない思いってこの事だったんだな。
気を付けよう」
独り言を呟きながらヒジリとリーネに置いて行かれない様、急いで雑踏の中に走っていく。
リーネが「お腹が空きすぎて死ぬ~」と騒ぐので早めの昼食を取る事になった。
ヒジリにブリエヴィルを名物を聞くと
「なんだろう?お肉もお魚もお野菜も全部美味しいよ♪」
なんて聞き甲斐が無い返答。
リーネは全部食べたい!なんて言っていたが生憎、所持金はそんなに持ち合わせていない。
所持金が少ないからこうなっているのに。
残念そうな顔のリーネを尻目に手頃なジャンクフード屋を見つけ、
片手で食べられる魚の薄皮パイ包みを注文した。
新鮮な白身魚をフライにし、スパイスを効かせたソース、野菜と薄いパイ生地で包んである、
若い人たちには人気の食べ物らしい。
ベンチに座り3人で一口かじってみる。
これがまたさっぱりとした白身魚にピリリとしたスパイスソース、
パリパリの野菜とパイ生地、絶妙なハーモーニー。
あっという間に手に持っていたはずの食べ物が無くなった。
リーネは口の周りに付いたソースを指で拭い、ペロリと舐め、
まだ食べ足りないみたいな顔をしていたがヒジリと顔を見合わせ無視する事にした。
昼食も終わり、次は観光だ。
リーネは不満そうに口を尖らせながら立ち上がった。
有名どころは”夕陽の坂”、”光の回廊”、”中央噴水広場”らしい。
中央噴水広場は登録会場になっていて人が多いため却下。
夕陽の坂も、夕方じゃないとあまり面白みが無いと言うことで今は却下。
消去法で光の回廊と言う場所に決定した。
光の回廊は中央噴水広場から西の住宅街の方にある。
今居る場所からそう遠くはなかった。
少し歩き、光の回廊と呼ばれる場所に着くと、
白い壁の建物がたくさん建ち並び、赤と白のレンガの道が綺麗に一本道になっている。
太陽の光が白い壁に反射し、地面に光が当たり、白のレンガだけが光っているように見える。
「眩しいけど、道が浮かび上がってるみたいだね」
「うんうん。綺麗だよね。確かに光の回廊だ~」
「私の魔法ならもっと綺麗に見せられるぞ」
それぞれがそれぞれの感想を言う。
その幻想的な光を眺めていると中央噴水広場の方から花火の音が聞こえた。
「あ!出場者と大会日程決まったみたいだよ」
ヒジリが花火の音がした方向を見ながら教えてくれる。
さっきまでのニコニコと天使の笑顔を浮かべていた顔とはまったく違う顔。
キリっと真剣な眼差しのまま小さく頷いた。
「よし!対戦相手を見てこよう!
どうせあたしより強い人はいないだろうけど。
念の為ね!!」
再び笑顔でそう言った。
中央噴水広場に向かい対戦表と日程時間が書いてある掲示板の前に立つ。
参加人数を数えてみると大体110人くらい。
「うわっ!多い。面倒くさいな~」
とヒジリは呟き、空を見上げる。
そこで登録時に無かった物に気が付き、ワナワナと肩を震わせていた。
リーネと共にヒジリの視線を追い、そこに垂れ幕があるのに気付く。
『銀髪のバーサーカー参戦!!!倒すのは誰だ!?』
その垂れ幕を見て笑いを堪える。
ヒジリはこちらをキッ!と一度睨み、掲示板の方へ対戦相手を見に行った。
そこで大きな溜息をつき、肩を落して、うな垂れた。
何があったのか確認しに掲示板に向かうと、一際目立つ張り紙があった。
『今回の大会は銀髪のバーサーカーが参加されると言う事で、
ブリエヴィルの王、ヴェリエ=フォン様もご観覧されます。
優勝賞金も倍の金貨100枚になりました。
参加者の健闘を祈ります。』
「な、なんで...」
ヒジリが小さな声で呟いていた。
ポンポンと肩を叩き、リーネと2人で親指を立てる。
「あ~~もう!!!ヤダヤダ!!
明日はあたし1人で来る!!!見に来ないで!」
「ダメ~!リーネと2人で応援する!なっ?リーネ?」
「うむ!私の魔法陣だ。私が傍に居ないと使えないぞ??」
そうだったのか?この前はリーネが居なくても使えたから、乗れば使えるものだと思っていた。
たしかに匣の中にリーネは居たから近くには居たなと、1人納得していた。
む~~!と頬を膨らませ反抗するが、どうにもならないと判断し、
諦めた様に口を開く。
「あたしに何があっても、あたしを信じて?
それを約束してくれるならいいよ」
なにがあるのかわからないが、うんと言わないと納得しなさそうなので
とりあえず分かったと言って、中央噴水広場を離れた。
「今日はこんなもんかな?」
ボクが聞くと、ヒジリもリーネも頷き、
リーネの魔法陣がある場所まで行き、お菓子な宿屋に帰ってきた。
部屋に戻ると、
む~と頬を膨らませ不満を露わにするキューブ。
「遅いです!!!ご飯はもうとっくに出来上がっています。
リーネ様はちゃんと手を洗って来てくださいね!!!」
こうして大会前日は終わろうとしていた。
明日の事を考えてるからなのか、テンションの低いヒジリ。
テンションMAXでご飯を、口一杯にほおばるリーネ。
それをまるで自分の子供の様に見守るキューブ。
「さぁ~!明日はしっかり応援するからねヒジリ」
「言い忘れてたけどハツキもあたしの推薦枠で登録しておいたから」
そんな事を今頃言います~~!!
お菓子な宿屋にそんな声が響いた夜だった。
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