第31話 大切な時間

母の日記を読み終え、自分の信じる者を護りたいと思った。


母は父を護る為に願い、手に入れた能力。

父がボクを護る為に使い、命を落した能力。


移動する・苦痛ペイン・ムーヴ


代償は使えば使うほど、使用者の命を削る。

母は自己回復能力に長けていた為、代償の進行は遅くなっていた。

自己回復能力を手に入れたボクはこれからも、

ヒジリ、リーネ、キューブを護りたいと強く誓った。


そんな気持ちで外を見ると太陽もだいぶ傾いていた。

だいぶ時間が経っていたんだな。

荷物も纏めていないし、今から出発しても夜がすぐに来てしまうので、

出発は明日にする事にした。


「今日はゆっくり休んで明日からまたガンバろう!」


ボクがそう言うとヒジリもリーネも嬉しそうに頷いた。


ヒジリはいつもの様に夕食作りを始める。

トントントン。

やはり、いつ聞いても心地が良い音。

幸せで平穏なひと時が戻ってきた。


リーネはお腹が空き過ぎているのかヒジリの傍から離れない。

ヒジリが料理の味付けを終えると「味見!!!」と言ってちょびちょび食べている。


「平和が一番」そう心の中で思いながらその様子を見ていた。


調理を終え、テーブルに豪華な晩ご飯が並ぶ。

肉料理、魚料理、スープにサラダ。最後にデザートもある。


全員で「いただきます」と手を合わせて食べ始める。

ヒジリの手料理はやはり美味しい。

皿に盛られた料理がどんどん減っていく。

食べている内にふと疑問が頭に浮かぶ。

この料理に使った材料代ってどうなっているのだろう?

宿泊代は父が払ってくれているのはわかっている。

ただ日常で使った分の材料費や、

リーネが食べまくっている料理代の金額の事は確認していなかった。


「ねえ?リーネ?ここで使った材料とかってタダ?」


知っているのか分からないがリーネに聞いてみる。


「何を言っているんだ?もちろん後払いだ」


やってしまった。

何も考えず使いまくっていた。

急いで皮袋をひっくり返し持ち金を確認する。


チャリン。

チャリーーン。


ふふふ。

金欠だ。

回復アイテム、罠、武器等を揃えるのにだいぶ使っていた。


それを見ていたヒジリが不思議そうに聞いてくる。


「お金無いの?金欠?」


その言葉に小さく頷く。

金欠に気付かなかったなんて恥ずかしい。


「な~んだ!早く言ってよ!」

「え!?ヒジリお金持ってるの?」

「ん!?無いよ」

にっこりと天使の笑顔で微笑む。

リーネは食事の手を止めることなく、魚をほおばりながら自分も無いぞ!とアピールしている。


「ボク、明日からギルドで討伐依頼クエストでもこなしてお金稼いでくるよ」


やはりヒジリは不思議な顔をしながら首を傾げる。


「そんな事しなくても、月1で開催される賞金付きの大会に出ればいいじゃん。

ちょうど明後日に開催されるはずよ?

王都だから少し遠いけど」


なんだって~!!!

そんな素晴らしい大会が毎月行われていたなんて。

宝箱にしか興味無かったから知らないのも当然...かな...?


「ちなみにあたしは永久出場権あるから予選無しですぐに出れるよ。

ただ少し切ない思いはするけど」


最後の言葉が引っかかるが、なんて心強いお言葉。


「お願いしてもいいですか?」


ヒジリを見つめ、手を合わせて頭を下げる。

首を小さく左右に振り、


「まぁしょうがないよね。

サクっと稼いで継承の旅に行かなくちゃだし」


苦笑いを浮かべながら了承する。


そんな話をしている内に料理全てを食べたリーネが


「王都なら私の魔法陣があるからすぐに行けるぞ」


よし!決まりだ!!


「それじゃ明日、王都に向かい大会の登録と事前調査。

その2つが終わったらココに戻ってきて、大会当日また王都に向かう。

これでどう?」


ヒジリもリーネも頷き、2日間の予定が決まった。


食べ終わった料理を片付けが終わると、

リーネはもう寝る時間らしくベッドに向かっていく。


「私はもう寝る。また明日な。

わざわざ早く寝てやるんだ、あとは2人ごゆっくりな♪」


ニヤニヤとしながら手を振り部屋の扉をバタンと閉める。

変な気を使ってくれて本当にありがとうございます。

そんな事、言われたら変に気を使うっての!!!

そう思いつつヒジリの顔を見ると顔を赤く染めて俯いている。

うわあああ、そんな表情されたら意識しちゃうじゃないか。


「あの~」「あの~」


同時に声を発する。

良くあるよね。うん。わかってる。

お先どうぞと言わんばかりに手を出し、また同時に声を発する。

訪れる沈黙。

「・・・・」

「・・・・」


あははとこれも同時に笑い声を上げた。

「何やってんのよハツキ」

「ヒジリの方こそなんなんだよ」

「だってリーネがあんな事、言うから...

意識しちゃってさ...」

「ま、まあそうだよね」

「こうやってまたハツキと2人っきりで話せる機会が来るなんて、

あの時は思ってなかったから。

だから...



嬉しい♪」

「ボクはまたこう言う時間が来るって信じてたよ。

必ずヒジリを見つけて一緒に居るって信じてたから」

「ハツキ...泣いてもイイ?」


ヒジリの頬に涙が伝う。

今は右眼からしか流れない涙。

とても綺麗な涙だった。


ズビズビと鼻を啜り、一呼吸し、

真剣な顔、潤んだ瞳でヒジリが見つめてくる。

その表情にドキリとし、唾をゴクンと飲む。


「ど、どどどどうしたの?ヒジリ?」

「あのね?」

「う、うん」


心臓がバクバク言ってるのがヒジリに聞こえないだろうか?


「ハツキ?」

「は、はひっ!!!」


緊張の余り、ハイが言えなかった。


「ゆ、ゆ...」

「ん?ゆゆ???」


「指輪、無くしちゃった!!!

ハツキから貰った指輪が無いの!

ゴメンなさい!本当にゴメンなさい!」

ヒジリは椅子から立ち上がり頭をペコっと下げる。


ドザッ!!

ボクは思わず椅子から滑り落ちてしまった。


「そ、そんな事???」

「そんな事って何よ!ハツキから貰った大事な指輪なの!!」

今度は違う意味で顔を赤くした。


「ヒジリ...コレ...」


小指にしていた指輪を見せる。

それを見たヒジリの顔がパアーっと明るくなる。


「ありがとうハツキ。見つけてくれていたんだ♪」

「まあね」


「え!?なんかハツキ冷たくない???」

「気のせいだよ。折角あげたのに置いていくんだもん」


「それは...」

ヒジリは泣きそうな顔で俯いた。

これ以上はマズいと思い、小指から指輪を外す。

それを見てヒジリは嬉しそうに目をキラキラさせ手を出す。


「ハツキ。また付けてくれる?」


今度は躊躇無く左手を出してきた。

なんだこれ!照れるぞ。

ヒジリは早く付けてよ!と急かす。


「今度はもう外さないでね!次は拾わないから!!」

照れ隠しをしながら左手の薬指にはめる。

指に入れるとピッタリ合うサイズに変わる。


「うん!今度はもう絶対に外さない!

無くさない!

ありがとうハツキ♪」


絶対に外さないって...

やたら恥ずかしくなり背を向け、風呂場に向かおうとすると、

後ろから「え!?なにこれ?」とヒジリの声がした。

慌てて振り向くとヒジリが両思いの石フィーリング・ストーンを、

指輪から取り出し手に持っていた。


「この色...」


ああ、蒼色になってたね。

気持ちが無くなっちゃって....


「コレ見て」


ヒジリが両思いの石フィーリング・ストーンを目の前に突き出す。


淡い紅紫色。

見たことも無いとても綺麗な石の色だった。


「これって...

どうしてこんな色になってるの?」


ヒジリに尋ねると、ヒジリは俯きながら呟く様に話始めた。


「これは...ね...

運命の...

運命の人、ずっと一緒に居る人同士が持った時に出る色」


顔に熱が帯びる。様な気がした。

運命の人か。

そうだね。そうだよね。

命を懸けて護りたい人だもんね。

当然と言えば当然だ。


「ヒジリ。

今度こそボクが護るから。

だからムリはするな。

指輪を無くすような事をしないで!

わかった?

ボクの傍から離れないで!!!


まあボクが死に掛けなければいいんだけどね」


ヒジリは目を逸らさず真っ直ぐボクを見つめ頷いた。


「わかったよ。ハツキ。

約束する。

でも最後の一言いらないから」


笑いながらそう言ってくれた。


久しぶりの幸せな時間。

戻ってきた幸せな時間。

この気持ちを忘れないでずっと護っていこう。


窓から外を見ると真っ暗な空。

新月。

星だけがキラキラ輝いていた。

少し騒がしく、静寂な夜。



「「 あっ!流れ星!!! 」」

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