お運びさんのラント

エドモントン・クルーザー

第2話 浴衣を着たお客さん

ジャパレスにご飯食べに来るぐらいだから、日本好きである。


というのは言い過ぎにしても、特に嫌ってはないはずだ。


いやちょっとまてよ。

中国嫌いとか言っている割にMade in Chinaの恩恵に預かりながら暮らしている人は多いから、ひょっとしたら日本食を食べるのと日本が好きは全く相関がないのかもしれない。


まあ、なんにせよ、私の働いているジャパレスに浴衣を着た小さな女の子二人を含む家族連れがやって来た。


帯はあの、絞りのフワフワしたやつで、自分もちっちゃいころはちゃんとした帯じゃないアレをしていたと思う。


丈はつんつるてんだし、女の子たちの髪は金髪だし、って問題はそこではない。


襟である。


襟が、左前だったのである。


一応確認したよね。自分の着てる制服の着物の衿、そんでもって寿司職人さんが着てる法被の衿も。


皆右前だよ。右前。


左前は…死んだ人がやるやつだよ。


さて、そこから私の苦悩が始まる。


浴衣を着てジャパレスに家族でご飯を食べに来てきゃっきゃきゃっきゃ嬉しそうなカナダ人家族に、


「その襟の向き、死人がやるやつですよ」


と言うべきか否か。



海外にて日本文化を伝承する者(ただのジャパレスのお運びさんだが)としてやはりここは正しい日本文化を伝えるべきではないか?


いやまて、子供達楽しそうだし、たぶんYouTubeとかで着付けのやり方見て、一生懸命やったお母さん/お父さんの熱意に水を差すのではないか?


っていうか、面と向かって間違ってるなんて言うと、日加友好の国交に亀裂を入れてしまうのではないか…



ぐるんぐるんと考え、周り回って私は私の気持ちに正直になることにした。



ごくりと唾をのみ込み、おトイレに向かって廊下を歩いてくるお母さんに話しかけた。


「あのう。お子さんの着物の衿、反対なんです。左が前だとお葬式で死んだ人の着物になっちゃいます。」


今思えば、

「お子さんの着物可愛いですよねー。」>「でも左前です。」>「っていうか着付け自分でやったんですか?すごい上手ですですねー。」


と、カナダ人が伝えにくいことを伝える時のテクニック、悪いことを良い事二つで挟む「サンドイッチ話法」を用いればよかったと思う。


その時の私は、ストレートだった。


いきなり本題に入っていた。


お母さんは言った。


「ヒャッハー。そうなの!?知らんかったー。ケタケタケター」


明るい人で良かった。









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お運びさんのラント エドモントン・クルーザー @EdmontonCruiser

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