やっつけ

「ところで、僕たちのことを書くとすると、お題の15センチが出てこないけどいいのかい?」

「あぁっ! でも、ほら! 文字では出てきますし」

「それでいいのかな?」

 う~ん、たしかに。1番大事なことなのに、すっかり忘れていた。

「2人の距離っていうのが多かったみたいだし、真似するかい?」

 そういって先輩がこちらに笑みを向けてくる。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 15センチ、15センチってどのくらい!? 散々調べておいて、全然意識してなかった。でも、たぶん手を広げて親指から小指、くらい。その距離に先輩が――

「む、無理です!」

「恥ずかしいのかい?」

「いや、その――」

「林檎のように顔を真っ赤に染め頬を押さえて俯く後輩ちゃんは、なかなかに可愛らしい」

「描写しないで下さいよ~」

 あぁもう、顔が熱い。先輩の方に顔を向けられない。

 わたしはカバンを手に取って出入り口へと駆け出した。

「あれ? 帰っちゃうの? どうするの、15センチは?」

「なんとかします! お疲れ様でした!!」

「これ、投稿するんでしょ? 楽しみにしておくよ。お疲れ様」

 わたしがドアを閉める隙間から先輩の優しい声が流れてくる。

 失礼な態度を取ってしまってごめんなさい。15センチは大丈夫です。

 コンテストの最終日は今度の月曜日。きっとこれを投稿できるのはその日になる。そして、次のパソコン部の活動も今度の月曜日。だから、先輩と会うのも今度の月曜日。

 と思ったら今度の月曜日って祝日か。あぁ~、どうしよう。

 これを投稿する前に先輩に見せたいんだ。

 わたしは少し悩んで、思い切ってスマホの電話帳を開いて、先輩を選ぶ。

 先に小説で知られちゃうのは嫌だ。だったら呼び出してやる。あの先輩のことだ、デートのお誘いですとでも言えば来てくれるはずだ。これはちょうどいい機会なんだ、ちょっと突然すぎて無理があるかもだけど。変わるんだ、わたし。見てもらうんだ、わたし。

 髪を15センチ切って、スカート丈も15センチ短くして。

 ――先輩好みの女の子になったわたしを。

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1500センチの分析 風吹 志秋 @Kazabuki_Shiaki

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