論文

ファミ通文庫×カクヨム「僕とキミの15センチ」短編小説コンテストにおける作品の傾向


 2017年5月31日から2017年7月10日までの期間で、「僕とキミの15センチ」短編小説コンテスト、というものが開催されている。これはファミ通文庫と小説投稿サイトである「カクヨム」が組んで開かれたものである。「15センチ」と「男女」の2つが小説のテーマになっており、この条件と文字数が指定数以内であれば応募することができる。私はこのコンテストに興味を惹かれ、自身で1作品執筆して応募したが、他の人が書いた作品の内容が気になった。また、カクヨムを利用することは初めてであり、最近はライトノベルをあまり読んでいないこともあって、どのような作品が多いのか気になった。そこで私は、この「僕とキミの15センチ」コンテストに応募されている作品を100作品読み、どのような傾向があるのかをそこから調べることにした。


 まず私が注目したのはコンテストのお題の1つである「15センチ」だ。小説において、「男女」が登場するのは珍しいことではないため、「15センチ」をどのように使うかで作者の発想が問われる。100作品における主要な「15センチ」の使われ方は以下である。


・2人の距離:29作品

・身長差:10作品

・ファンタジー的生物の体長:9作品


 「2人の距離」というのは、主要な登場人物、そのほとんどが男性と女性だが、その2人が15センチの距離まで近づく、あるいは15センチ離れている、というものである。詳しくは後述するが、このコンテストにおいて恋愛要素を含む作品は非常に多く、その恋愛が深まる途中で「15センチ」という距離を使う作品が多かった。似た要素として「机と机の距離」という作品が3つあった。舞台が学校の話であれば、自然な使われ方だと言える。

 次に多かったのが「身長差」である。理想のカップルの身長差は15センチと言われることもあり、それを利用した作品である。本来は男性の方が身長が高いが、これらの作品の中にはその逆、つまり女性の方が身長が高い作品を散見した。身長差としてそのまま利用するのはありきたりだろうと考え、変化をつけたのだと考える。

 「ファンタジー的生物の体長」が後に続いた。これは、妖精や小人などの現実には存在しない生物を登場させ、その生物の体長が15センチであるという使い方である。これらの生物を登場させると現代日本ではなく異世界が舞台になりがちであるが、この9作品は全て日本が舞台であった。また、15センチという小ささであり、最大で15000字の短編で完結させる必要があるからか、争いなどに発展することもほとんどなかった。

 その他の使われ方として、まず定規を挙げることができる。15センチと聞いてまず真っ先に思い浮かべる物の1つだろう。それゆえに定規を利用した作品は多いのではないかと予想していたが、それほど多くはなかった。定規を使って面白い物語を展開させるのが難しかったと考えられる。

 臓器を使った作品は3つあった。心臓と膵臓が使われており、その3作品は全て死が関係する話であった。これらの臓器の大きさがおよそ15センチであるということを知っていれば、物語には組み込みやすい題材と言えるだろうか。

 文庫本の大きさを利用した作品も3つあった。カクヨムを利用している人の多くはライトノベル、つまり文庫本を多く読んでいると私は考える。そのため、文庫本を利用した作品はもっと多いと見積もっていたが、予想は裏切られた。灯台下暗しという言葉もあり、文庫本の大きさが15センチということに意外と気づかなかったのかもしれない。

 100作品中の2作品に使われたものを挙げると、千円札の大きさ、降水量、折り紙、スマホの大きさ、剣道における間合い、暗号の題材がある。剣道における一足一刀は剣道を経験していないと恐らく思いつかないだろう。また、突発的に与えられた15センチを暗号の題材に使い物語を作ることはそう簡単にはできるものではなく、作者の能力の高さを見ることができる。15センチのスマホは比較的大きい物であり、15センチを組み込むのに苦心したのではないかと考える。

 今挙げた要素の作品をまとめても、全部で80作品弱であり、残りは被り無しの使い方をしていた。非常に興味深い結果が出たといえる。


 次に、作品のジャンルについて挙げる。カクヨムに小説を投稿する際には、あらかじめ決められたジャンルの中から1つを選ぶ。そのジャンルごとに作品の数を数えたのが以下である。


・恋愛:39作品

・ラブコメ:16作品

・現代ドラマ:12作品

・現代ファンタジー:11作品

・SF:11作品

・ミステリー:5作品

・異世界ファンタジー:4作品

・詩・童話・その他:2作品


 恋愛とラブコメが順に多いことから、恋愛要素を含む小説が多いことがわかる。だが、実際には「多い」どころではない。その他のジャンルにおいても恋愛要素を含む作品は非常に多く、100作品の中で恋愛要素を一切含まない作品はわずか4作品であった。コンテストのお題の1つに「男女」があるためにこういった結果となったのだろう。恋愛小説を読みたい人に非常に向いているコンテストだといえる。

 もう1つ注目すべきは「異世界ファンタジー」の少なさである。現在のライトノベル界隈は異世界転生ブームであり、異世界を扱った作品が非常に多い。だが、このコンテストに限っては非常に少ない。この要因としては、このコンテストで募集しているものが短編であることと、15センチというお題に影響されていると考える。異世界を舞台にした場合は、まずその世界観を説明する必要があり、短編では難しくなる。また、15センチというのは地球における長さの単位である。異世界においてもセンチメートルが採用されているかはわからない。採用されているとして、その世界における、例えば、15センチのモンスターが登場する、という使い方をするとご都合主義だという評価をされかねない。そのために、異世界ファンタジーは少なかったのだといえるだろう。


 登場人物の一人称についても調べた。これは、このコンテストが「僕とキミの15センチ」コンテストだからである。一人称は「僕」なのか否か、私は気になった。登場人物についてだが、主人公と思われる人と、「キミ」に相当する人の2人を挙げて調べることにした。

 100作品あるため、調べたのは200人であるべきだが、複数の登場人物が入れ替わりに登場し、誰が主人公か判別できない作品が1つあった。また、キミに相当する人物がわからない作品もあった。そのため、197人から調べることになった。197人のうち、男性キャラクターが98人、女性キャラクターが99人である。

 まず、女性キャラクターについてだが、75人が「私」、9人が「わたし」、6人が「あたし」、1人が「アタシ」、その他が8人となった。ほとんどのキャラクターが「私」であり、個性的な一人称はほとんどいなかった。これは短編であるために登場するキャラクター数があまり多くないからではないだろうか。

 次に男性キャラクターを調べた。全部で98人中、「俺」が40人、「オレ」が1人、「僕」が48人、「ボク」が2人、その他が7人であった。私の印象ではライトノベルにおける主人公は「俺」と呼ぶことが多いように思う。だが、今回調べた結果では、「僕」の方が少しだが多いことがわかる。やはり、コンテスト名のことを考慮して登場人物を考えた作者が多かったのではないだろうか。


 このように男性は「僕」と「俺」で半分ずつといった一人称であり、女性は「私」が圧倒的に多かったが、その人物たちはどのような身分だったのだろうか。そのことについても調べることにした。調べた登場人物は先ほどと同じ197人である。その内訳が以下である。


・小学生:7人

・中学生:17人

・高校生:88人

・大学生:11人

・社会人:34人

・その他:40人


 まずわかることとして、圧倒的に高校生が多い。ライトノベルにおける主要な登場人物は高校生であり、このコンテストもその通りになったと言える。注目すべきは社会人の多さだ。登場人物の数を比較的押さえることができるからか、それとも、昨今活気づいているライト文芸ブームからか、理由は定かではないが無視することはできない興味深い結果が出たと言える。


 最後に文字数についても調べたために記しておくことにする。このコンテストは10000字から15000字で指定されているが、実際にはどの程度書く人が多いのだろうか。そこで、100作品の平均を取った。すると、12666文字であった。調べている過程では14000字を超えるような作品が多いよう感じていたが、実際はそうではなかった。驚くことに、ほぼ中間値を取っている。10000字ギリギリだと良くないかもという思考が働いて、気持ち多く書いておこうという考えだったのではないだろうか。


 以上が私の調査結果である。その他に注目していた点としては、作品が一人称視点で進むのか、それとも三人称視点で進むのかという点や、一人称視点であれば視点変更はあるのかという点、物語中に「死」が関係してくるかという点がある。だが、時間の都合上、今回はこれが限界であった。

 果たして、どの作品がコンテストの大賞に選ばれるのか、非常に気になるところである。

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