高校生たちの青春と古代の神話、二つの物語が重なり合う現代ファンタジー作品です。
遠大で長大で迂遠ですぐ近くにあるのに感情が邪魔をして手が届かない。言いたいことが言えない。いけないと思っていても行動が伴わない。
相手を想い、自分を想う。だから、距離を取る。
自分で自分を縛ってしまう。守りたいと思うのにどんどん遠ざかってしまう……。
そんなもどかしくいじらしい人間関係の機微が、やがて遥か神話の時代の物語と交じり合っていきます。
勝気な少女、速瀬鈴乃。気の弱い少年、葛城直日。
二人をよく知る友人、篠宮楓。
葛城の家に複雑な思いを抱くクラスメイト、立花縁司。
神話伝承を語る郷土資料館職員、石名原。
物語は前半、上記の人物たちを中心に動いていきます。しかしそこに古代の神々が重なりはじめて――。
それは伊勢の国の神話。太古の昔にあった蛇神退治の伝説……。
少年少女たちの軋轢。秘された二人の過去。地元に伝わる昔話。専門家による神話解釈。そして揺らぐ記憶と古代の出来事。どこまでが夢でどこまでが現実なのか。
さまざまな要素が密接に絡み合い、静かな、しかしひりつくような激しい感情を伴って一気に結末へと収束していきます。
物語のスケールは壮大ですが、またとても局所的でローカルなお話でもあります。とくに繊細な情景描写からは山深いかの町の風景が目に浮かぶようで、巨視的な物語軸の中で微視的に綴られる叙述が冴え渡っていて素晴らしいです。
伝えたいことがある。だけど、伝わらないかもしれない。
それでもそれを乗り越えた先に見えてくる何かを求めて――。
そんな希望を想う物語です。
おススメです!