天の川のヒメゴト

遠堂瑠璃

 天の川のヒメゴト

 天の川を見上げて、想う事。

 天の川は、死んだ星が寄り添う処なのだと、アイツは云った。

 星も死ぬんだと、俺は初めて知った。


 夜空に流れる、淡くぼんやりとした白い筋を辿りながら、想い出す。

 アイツはあの日、嬉しそうに夜空の星を数えていた。


 あの日のアイツの真似をして、星の数を数えてみる。

 赤い星、青い星、白い星……。

 途中できりがないと気づいて、やめた。


 もう一度、ぼんやりと天の川に眼を戻す。


 あの天の川は、遠い昔に宇宙に飛び出していった人達が落としてしまった夢の欠片が眠っている処だとも、アイツは云っていた。


 仄淡く、優しい光を描く星の筋。

 あの日、この満天の星を見上げながら語っていた、アイツの声みたいに淡い。


 何か、らしくもねぇ事ばっか考えちまってる、俺……。


 不意に視線を夜空から離して、傍らに向けてみる。

 そこには只、ひっそりと伸びた草が生えてるだけ。あの日俺の隣に居た、アイツの姿があるわけもないわけで……。

 それを思い知る度に、何だか酸っぱい気分になる。


 何だろな、こういうのって……。


 アイツはと過ごしたのは、たった3日間。俺の13年間の時間の中の、たった3日。

 けれどそれは、俺の中では最も色濃い3日間。


 出会ったのは、ほんの僅かな偶然だった。

 あの日同じ時間にあの場所に、俺とアイツは居合わせた。

 ほんの些細なズレが生じただけで、お互い知らない者同士で通り過ぎちまったんだろうと思う。


 けど、俺とアイツは出会った。

 俺の滞りなかった日常を散々引っ掻き回して、あっと云う間にアイツは居なくなった。

 俺の心の中は、いまだに渦巻き銀河みたいにぐるぐるしてるのにさ……。


「また会いに来る」


 アイツが去り際にニッコリ笑いながら云ったその一言が、馬鹿みたいに俺の支えなんだよ……。

 お前は、何も知らずに帰っていったけど。


 何だか、また心の中ぐるぐる渦巻いちまった。

 俺は、ふ~っと肺の中の空気を全部吐き出した。この渦も、一片残らず吐き出しちまえたらいいのになぁ。……まあ、無理なんだけどさ。


 俺は、もう一度夜空を見上げた。

 天の川を見ながら、想う事。


 もう一度、アイツに会えたらいいのになぁ。

 俺の13年間で、一番キラキラとした、3日間。

 一生忘れられない3日間。

 一緒に悪い事もしたり、ドキドキしたり、笑い合ったり、たくさんの記憶を共有した、3日間。

 

 何度か握り締めたアイツのちっさな手の感触を思い出して、俺は何だかこそばゆくなった。

 アイツと過ごした、3日間。


 ……忘れられるわけ、ねぇじゃん。


 天の川を見上げる度、何度でも想う。


 もう一度、アイツに会いたい。


 どうやら俺も、あの天の川に夢の欠片をひとつ、落としてきちまったみたいだな。


 全く……。

 こういう気持ち、どうすりゃいいんだ……?


                        ♡End


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天の川のヒメゴト 遠堂瑠璃 @ruritoodo

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