除霊オリンピックの金メダラー

ちびまるフォイ

みんなの注目はいつも優勝者

「はじまりました。除霊オリンピック世界大会。

 選手はみな誰もが緊張の面持ちで準備を進めています」


会場は熱気というより冷気に満ちていた。


「今年の優勝は誰になるでしょうか」


「アレクサンドロス選手ではないでしょうか。前回も金メダルでしたし」


「まぁどうでもいいんですけど」

「じゃあ聞くなや!!」


解説席ではひと悶着が行われている中、選手は除霊グッズを取りそろえた。


「ヘイ、ジャップ。今年も優勝はいただくYO。

 今日もぶら下げてるその日本刀は、負けた時のハラキリ用かい?」


「除霊前に言葉をかわすのは不謹慎でござる。

 それにこの刀は切腹用ではござらん」


「ユーのその仏頂面がくやしさに歪むのが楽しみだYO」


話していると会場には怨霊が運び込まれた。


「では、この怨霊を憑依させて一番早く除霊できたかを競います。

 チェンジユアマーク」



ピッ!!



開始をつげる電子音がなるや選手全員に怨霊が憑りつけられた。


「オンコロコロセンダリマトウギソワソワカ……」

「うぉーー! 消えろー! 消えろー!」


選手は思い思いの方法で自分についた幽霊を引きはがそうとする。

誰よりも早く、霊媒師の前にいって霊がはがれたと判定されればメダル確定。


「HAHAHA。悪いが今年も優勝はいただくYO」


男は十字架を出して聖書をひらいた。

これが噂に聞くエクソシストスタイル。


「悪しき使いよ、われの清らかな体から出ていけ!」


あえて幽霊と正面対決することで一気に疲弊させて除霊する。

それが世界でも最速の除霊方法エクソシスト式。


「何妙法蓮華経……」


唯一のライバルは日本代表のお経とお塩式除霊法。



正面対決してぶっ飛ばして除霊するエクソシスト式に対し、

幽霊の願いや無念を解決して除霊させるお経式。


どちらも除霊オリンピックでは接戦を繰り広げていた。




――今大会をのぞいて。


「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


いつも通り正面対決するエクソシスト式だったが、

今大会の怨霊はとくに気性が荒く除霊方法の相性は最悪。


「ま、まずいYO! このままではイエローモンキーに負けてしまうYO!」


除霊にモタつくほど、ライバルはどんどん幽霊を浄化していく。


「こうなったら……!」


男は腰につけたリボルバーを抜いて、盛り塩を撃ち抜いた。


除霊中だったこともあり、盛り塩が崩れたことでライバルの除霊は一気に崩壊。

なだめられる寸前だった怨霊は暴れ始める。


「Just Now! 今がチャンスだYO!」


ライバルが立て直し図っているあいだに除霊を済ませる。

誰よりも早く判定霊媒師のもとにたどりついた。


「除霊終了だYO!」


「わかりました。では怨霊の残りがないか判定しますね」


霊媒師は金属探知機でくまなく男の体を調査しはじめた。



ピピピピピッ!!



「ダメですね。なにが除霊終了ですか、バリバリ残ってますよ」


「Why!? どういうことだYO!?」


「オリンピックに優勝できずに殺された未練の塊みたいな幽霊が

 あなたの肩にぶらさがっています。

 いくら優勝したいからって除霊したと嘘つくのはダメです。やり直し」


「ふぁっく!」


男はすぐに持ち場に戻って除霊を再開したが、入れ違いにライバルが霊媒師のもとへ。



「はい、除霊されてますね。一番のりです、おめでとうございます」


「かたじけない」



「ふぁーーっく!!!」


再除霊でモタついている間に、今大会の優勝者が決まった。


「予想Guy……いったいどうして……1度は除霊したはずなのに……」








大会終了後、優勝者には取材のマイクが詰め寄った。


「いやぁ、拙者のために死んでくれたオリンピック参加者のひとりには感謝でござる」



大会を見ていた人も、参加者のひとりが試合中に消えたことは気付いていなかった。

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