第3話いつも通り?の顔触れ

ジリリリリ......。


ー うるせーな。


俺はベットから起き上がり音を鳴らす時計を止めると、再び辺ベットに入り寝入ってしまった。


......しばらくの間静寂ののちに、


「セイジー!起きないと遅刻するわよ~!」


下の階から母の声が響く。

これが我が家のいつもの光景である。


「はいはい、今起きるよ!」


そう答えると俺は乱れた黒髪を整え、どよんとした黒いまなこをこすりながら階段を降りて行く。

リビングに着くとソファに腰を下ろし朝食であるパンを食べ始める。


「おはようセイジ。いい加減朝弱いの治しなさいよ。新学期早々、遅刻したら学園に迷惑

でしょう。」


「あーもうわかってんだよそんな事。」


彼女の名前はクロギリ セイコ。今少し乱心気味の少年、クロギリ セイジの母親である。

黒い髪をボブでまとめ、どこかリスの目を思い起こす丸くつぶらな瞳は子供を見守る母の慈愛が滲み出ている。

セイコは街の中央付近にあるクロギリ剣道道場の師範代を務めている。近所には《闘えるママ》の二つ名で通っていて、ちょっとした有名人だ。


「じゃあ飯終わったから準備して来るわ。」


二階に向かう息子に、セイコは心の中で思う。

ー 頑張ってきなさい。

息子に心中でエールを送ると家事に戻る。

ガコン!


「いぃぃってぇぇぇ!」


次の瞬間、セイジは階段の段差に膝を思い切りぶつけ、絶叫していた。

着慣れた制服の埃を落とし、玄関で靴を履き腰にある二本の剣を撫でると一言、


「行ってきまーす!」


セイジは勢いよく家を後にした。空は目が眩むような晴天だった。


【ルグルー剣術学園。敷地面積東○ドーム約三つ分、全校生徒約三千人。王国最大のマンモス校だ。校舎はA棟、B棟、C棟に分けられており試合場やグラウンドなど様々な設備が整っている。学園の制度として年に二回、学年ごとに上位十名を選抜するルグルー杯と呼ばれるトーナメントが行われ、その十名は、就職の時王国の推薦権を持てるので圧倒的優位に立てる。

卒業時、成績上位五位以上のものは王国近衛騎士団に入団する権利が与えられその大半が入団していく。ちなみに現在、セイジは三年生、序列は次席である。】


セイジは学園に着くとまず校門の正面にある大きな掲示板を見る。


「今年も一組かA棟、一番奥...ってやべっ!遅刻する!」


そう直感した少年は全力で自分の校舎に向かって行った。

「はーなんとか間に合った......」


机に座り汗をかいた額にハンカチを当てため息を一つ。

トントン。不意に背中を叩かれる。

振り向くとそこには、親友の姿があった。


「ようセイジ。ギリギリだったな。次席殿がそんなのんびりしていいのかよ。」


「仕方ないだろ。俺朝弱いし。」


陽気に話しかけてきた彼の名は、レンジ・カリスト。

一年生の時、はるか北方の外国からきた留学生である。

その明るくフレンドリーな性格で当時、すぐクラスに馴染み人望も厚くなっていった。

そんな彼は何故かセイジによく接し一番仲を深めた。


一年の冬辺りにどうして一番自分に接してくれるのか聞いて見たことがある。


すると彼はこう答えた。


ー お前の中にある大きな目標と、それを成し得る力を感じ取ったからだ。


その時セイジは少しドキッとしたが同時に信用に足る人物だと感じ、親友になったいまに至る。


「なぁレンジ、このクラスに番号持ちは俺らだけなのか?」


「どうやらそうみたいだな。っと先生、来たみたいだぜ。」


教室の前の扉が開き人が入って来る。非常に美しい女性だった。

引き締まった体つきに、腰の辺りまである長い麦色の髪は朝の日を浴びて輝き、キリッとした藍色の双眸はどこか使命を帯びている雰囲気だ。


そんな彼女にセイジは見惚れていると、鈴の音の様に儚げな声が教室に響いた。


「初めまして、私は新任のヨリノ アリスと申します。今年のあなた方の指導係、つまり担任として一年間共に過ごしていきますのでどうぞよろしくお願いします。」


「「お願いします!」」


クラスの面々が挨拶を返す。

するとアリスは満足した表情で笑顔を見せ更に言葉を続ける。


「今日は始業式。ということは年に二回の大行事、《ルグルー杯》が行われる日です。ですので十分後、A棟前のグラウンドに集まって下さい。」


「「はい!」」

アリスは頬を赤らめ身じろぎしながら更に言葉を続ける。

「ナンテキキワケノイイコタチナノッ...こ、これにてホームルームを終わります。クロギリ君はこの後先生の所に来て下さい。では解散します。」


「「ありがとうございました!」」


「はわぁ~~」


ホームルームを終わりますの前と返事の後の言葉はよく聞こえなかったが、ともかくいい先生だと思う生徒たちであった。

各々が準備を始める中セイジはアリスに呼び出され教卓の前に来ていた。


「で、なんですか先生。」


「貴方は前年度次席で一年を終えています。今年から学校の規定により主席と次席はルグルー杯の予選が免除となるので、貴方は午前中、試合場で稽古です。」


ー へー今年からそんな規定が作られたんだなぁ。


「わかりました。失礼します。」


ハキハキと返答したセイジは、すぐに準備を終わらせ、試合場に向かった。


《ルグルー杯。予選、本選に別れた年に二回の大行事。予選は試験官との模擬試合。本選は成績上位十名によるトーナメント、となっている。》


のんびり、ゆったりと移動しているセイジ、そんな彼は稽古の内容を考えていた。


ー うーん結局なんなんだろう。立ち合い?打ち込み?頼むから型の練習は勘弁してくれよ...。


「あ、着いた。」


気づけば試合場は目と鼻の先にあった。

ドーム状の大きい建物で天井が筒抜けになっているそれの前に一人の人影が見える。


その人影はこちらに気づくと、手を振りながらこちらに向かって来た。


「おーい!セーちゃん!」


薄い金髪、紅い目、その声の主はリダ シンヤ。

現在主席で《最良の剣士》の異名を持ち、セイジの幼馴染みである。

その整った容姿と真っ直ぐな性格から女子人気ナンバーワンのいわゆる万能型イケメンだ。


「おうシンヤ。流石は最良様、集合時間十五分前とは優秀だね~。」


「ひ、冷やかさないでくれよセーちゃん、癖なんだから。そうだ、稽古の内容なんだろうね。」


「それな、行けばわかるだろ。」


「うーん。そうだね、中に入ってみようか。」


二人は試合場の中へと向かって行った。

この時まだ二人は知らなかった。


この先に、とんでもない試練が待ち受けていることに。

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剣が奏でる物語『ソードグリムアイズ』 桐音翼 @kirine320

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