第2話始まりの草原にて2

ー 誰か、誰かいないのか。

自身の無力さを呪い、必死に助けを求める少年は、ひたすらに整備された道を走っている。

しばらくすると向かい側から人が走って来るのが見え、少年は駄目元で会話を試みる。


「そこのお兄さん!助けてくれ!」


必死の形相。もう見てくれなど関係ない。少年の想いが届いたのか、剣を腰に下げた彼は振り向きこう一言。


「大丈夫必ず助ける。」


それだけ言うと正面に向き直り奥へと走り去っていた。その一幕を見た少年はただ1つ。


ー どうか、どうか神様。あの人をお護り下さい。


そう願った。

ー どこだ、どこにいる?

森の中を疾駆している彼。


「オォォォォ...」


ー そっちか!


彼は右に走る。すると怪物はそこにいた。

体長、推定7メートル、常に身体から黒い蒸気を常に発している人型のそれの下には、下半身の無い人の死体があった。


ー くそっ。間に合わなかったか!


巨人は、彼を視界に入れると一目散に走ってきた。応戦すべく、彼は腰に挿した三本の剣を抜き放ち前に構える。


「セィッ!」


右手の人差し指と中指の間に挟んだ剣で伸ばされた左拳を流れに任せ左に弾く。


ー 鈍い!


いける、と彼は確信した。このまま騎士団が来るまで時間稼ぎができると、そう思った。


黒い蒸気を纏った胴体を狙うために足の脛を狙い転倒を狙う。


すると狙い通り巨人は足へ衝撃を受け膝立ち状態になる。


ー 好機!


巨人の足を伝いに体に登ると脇腹に一閃。体から鮮血が噴き出す。


「オォォォォ!」


巨人が苦しそうにもがく。しかしその瞬間巨人は微笑した。


刹那、彼の脇腹から血が滲み出してきた。


ー なるほどやられたな。


彼は推測する。恐らくあの巨人の出す蒸気は自分の受けたダメージを相手に返すと言うタチの悪い代物だろう。


自分はこいつを殺せない。彼はそう悟った。


ー なら精々全力で足掻く!...これを使えば恐らく身体が耐えきれないだろう。だが師匠から受け継いだこの力、ここで使わずしてどこで使う!


覚悟を決め彼は詠唱を開始する。


「剣の魂よ。全ての聖霊よ我の声に耳を傾けたまえ。我が名は剣聖、ディアラベル。我に力を与えたまえ。《リリース・ブレイドルーツ》。」


大地が震える。雨が止まる。まるで時間が止まったかのように目が冴え渡る。

これが《剣聖》の力。圧倒的『剣気』に巨人が怯む。


「行くぜ」


地を蹴り巨人に向かって跳躍、もはや飛行の域に達したそれに身を任せ、風に乗り剣を振る。


巨人はそれを抑えようと右手を伸ばす。

剣と拳が触れた瞬間、拳が音もなく崩れ落ち、刀身が体まで迫る。


そして巨躯の肉体に剣があたるその刹那、


「ガァァァァ!」


巨人が蒸気をあたり一帯に放出する。

ー 何も見えない、けどっ!


「いっけぇ~!」


確かに巨人の体があった場所に斬撃をぶつける。

しかし手ごたえが無い。蒸気が晴れたが巨人の姿はどこにも無かった。


ー やったのか...?


安堵、しかし次の瞬間彼の意識は糸が切れた様に急に暗転した。

「こっちです!」


「わかった!」


街に帰還した少年は、救出の道中の道案内を騎士に頼まれ現在、移動中だ。


ー 確かこの辺に......


「ガァァァァ......」


ー そっちか!


目的地に近づくにつれて自然破壊の度合いが徐々に上がっていく。


「ーーーッ!」


少年は息を飲む。視界には下半身の無い死体、そして力なく倒れている男。


「お兄さん!」


「うぅ、少年か。ははっあのデカブツ尻尾巻いて逃げて行きやがった。」


「ボロボロじゃないか。早く手当を......」


「少年、どうしてこんなことになったと思う?」


唐突に、しかし確かな声で彼は寝そべりながら少年に問う。


「それは、あの化け物が草原まで出てきたこともあるけど...やっぱり俺に力が無かったからだと思う。」


少年は静かに涙を流しながら言葉を並べ続ける。。


「だってそうだろ?俺があそこで逃げずに戦える力があれば先生は死なずに済んだんだ。」


それを聞き彼、剣聖はこう述べる。


「君の言っていることは正しいだろう。でも、でもね、人というものは自分の弱さを肌で感じることによって、初めて強くなるという事を学ぶ権利を得られる。もう君はその権利を手に入れている筈だ。」


「何が言いたいんですか。」


「端的に言うよ。君に俺の力を貰って欲しい。」


少年は今まで自分の無力さを常に恨んできた。だがそれを物色出来る力を持っている人が自分にそれをくれると言うのだ。


少年は静かに口を開く。


「貰います。そしていつの日か貴方を超える剣士になります。俺の前で人が死なないくらいに。」


震える声で確かに宣言する。


「よし、よく言った!今のは俺とお前の約束だ。頑張れよ少年!」


草原に一筋の光が走る。


その日はのちに《剣聖の大雄戦》と呼ばれ、人類史に永遠に残り続けられる逸話となったという。

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