剣が奏でる物語『ソードグリムアイズ』

桐音翼

序章

第1話始まりの草原にて1

「はぁっ、はぁっ......」


薄暗い洞窟の中、彼は光を求めて走っていた。


「オォォォォ......」


洞窟の奥深くから、脳内に直接恐怖をねじ込ませるようなけたたましい叫び声が響いて来る。

その声に怯えながらも、まるで獅子から逃げようと必死に足掻く草食動物のように、彼はひたすらに光を欲した。


「大丈夫、もう直ぐ出口だ......」


ふと彼の視界が広がった。外に出た、その事実が彼の心を少し軽くする。

空は灰色にくすみ、泣き腫らす勢いで大地を濡らしている。

ー この調子だと逃げきれそうだな。よし飛ばそう。


彼は一層足を早めた。

此処は王都の防壁近くの草原。

そこには場違いななんの武装も無い子供達が1人の大人と一緒に歩いていた。



「はーい。この辺で休憩挟むね。先生ちょっ

とお花摘みに行ってきまーす♪」


男の先生の若い声が響く。この団体の目的は草原のピクニックだった。

穏やかな風にあたりなびく草木、元気に走り回る子供達。

実に最高のピクニック日和である。

ふと1人の少年は空が灰色に染まって行くことに気づいた。

木々はざわつき冷たい風が少年の頬を撫でる。

ポツリポツリとついに雨が降ってきた。

「おかしいな、今日は一日中晴れの筈なのに。」

ー 先生を呼びに行こう。何か胸騒ぎがする。

幸い自分は班の連絡係だったため先生を呼びに行く、という行為はごく普通なことだろう。

そう結論づけると少年は草原の奥深くに走って行った。

「先生~どこですか~?」


少年は今、草原の奥にいた。

ー これ以上進むとモンスターが出没地域に入っちゃうな。

長い草をかきわけてひたすら前に進む少年。

ガサッ。

何かが動いた音がした。

興味を持って、少年はそこに足を運ぶ。


「オォォォォ!」


そこには肌が黒い人型のモンスターが立っていた。

ー あり得ない。此処は国が指定した出没地域の外側だぞ。

恐怖で身体が動かない。見えない手に足を掴まれているかのように、ハンターに睨まれた獲物のように1つも身動きが取れない。

ー 殺されるっ!

少年に人の大人ほどの大きさの手が伸ばされる。

ギャリィィン!

しかしその手に誰かが刀で横槍を入れた。


「大丈夫か?」


少年は涙を流しながらコクリと頷く。助けに来たのは先生だった。


「よし、今からお前は道を戻ってみんなに危険を知らせてくれ。」


「でもそれじゃあ先生が...」


「いいから行ってくれこれしか無いんだ。」


再び伸ばされた巨人の腕を大きく弾き上げ、先生は叫ぶ。


「行けっ!」


少年は涙をこらえながら走り出した。

ー 何故だ、何故俺を追いかけてこないんだ?

乱れた赤い髪を整え金色の目を潜め、街に向かいながら彼はそう思った。


草原を走っていると視界の先に子供達を見つける。それに近づき彼は口を開く。


「君達!奥の方は危険が危ないから早く逃げなさい!」


ー やべー同様して言葉がおかしくなってる。これでも冒険者なのにな。


半分自傷的な笑みを浮かべ非難勧告を出す。


すると1人の子供が彼に歩み寄り話しかけてきた。


「お兄さん、頼みがあるんだ。」


「なんだい、言ってごらん。」


「奥の方に先生と生徒が1人ずついるんだけど危険なんでしょ?助けに行ってやれないかなぁ?」


まだ奥に人がいる。その事実に彼は精一杯心を悩ませる。

しかしそれは一瞬で、すぐに決意に満ちた声で問いに答える。


「わかった救出に向かおう。君達は街に着いたら役所にこの話をしてくれ。国が動いてくれるだろう。」


それだけ言うと彼は再び草原を駆け抜けた。


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