2029/07/16(月) - 現実を開始しますか? -
最終話「気持ちが強くてNew Game」
一学期の最後の一週間が始まった。
「あれっ?
「ホントだ、どしちゃったの。夏休みデビューならぬ、夏休み前デビュー!?」
教室の後、
「おはよう。そ、そんな感じ、かな」
「えーっ、でも何かいいよ。うん、
「ホントホント、何か変わったよ印象……」
――変わるのは、これから。
そう心に結んで、緋瑪は小さく
【石花幻想譚】――今では第一幕と呼ばれる物語で、緋瑪は英雄になった。しかし、生まれ変わったかのように全てが
気付けば緋瑪は、もう一人の自分を演じてたクラスメイトを
「あァ!? んだとゴルァッ! もっぺん言ってみろやぁ!」
「おーおー、朝からテンション高ぇな。
「それにもう、
待ち人、
そのまま
周囲の女子たちは皆、呆れたように笑った。
「あーあ、朝からまたやってるよ。それより朱崎さん、土日で何かあったの?」
「あ、私もそれ聞きたーい。ねえねえ、教え――朱崎さん?」
すい、と一歩、確かに緋瑪は歩み出る。クラスメイト達が
目の前では今、一人の少年が勇気を試されていた。
「何度でも言うよ、加賀野くん。僕はもう、加賀野くんの言いなりにはならないから」
「ハァ!? お前、何言ってんの!? もう一発もらいてぇのか、オイオイィ」
峰人の
最も、緋瑪にはそれは当然にも思えた。自分が変わるように、峰人も変わろうとしているのだ。
女子の間から悲鳴があがった。再度、加賀野が峰人を殴ったのだ。
その
季節は冬、場所は廊下……そう、あの日も峰人の【エルフターミナル】は宙を舞い、タイルに
「おい加賀野、やりすぎだっつーの……朝から熱くなんなよ」
「伊勢谷も早く謝っちまえよ、痛いの嫌っしょ? な?」
加賀野の取り巻きが呆れた口ぶりで、両者の間に割って入ろうとした。クラスメイト達の
突如
「待って。やらせてあげて」
「あ? あ、ああ……つーかどうした、
「つーか初めてじゃね? 俺等こうして
振り向き立ち止まった二人を緋瑪は下がらせる。
彼女は一度胸に手を当て呼吸を落ち着かせると、はっきりと言い放った。
「私は
「そりゃいいけどよ、俺等が止めねぇと加賀野もやりすぎちまうし」
「俺等だって別に、本気で
緋瑪は峰人の【エルフターミナル】を足元から拾い上げると、それを両手で包んで見守った。同時に、首を横に振って否定する。
「違うよ。まだ」
――伊勢谷くん、頑張って。
心なしか、【エルフターミナル】を握る手に力がこもる。緋瑪の視線の先で
【ブライダリア】のヒメだった
「もう一度言うよ、加賀野くん。お昼なら、一緒に買いに行こう。僕はもう、お昼ごはん代を巻き上げられたりはしない」
「一緒に行こう、だぁ?」
加賀野が
「僕はもう、使いっ走りにはならない。けど、友達にならなれる。先週末に言ったよね、僕は何も失わない……むしろ手に入れるって。それ、勇気なんだ。自分の意思を相手に伝える、ほんのちょっとでいい、勇気なんだ」
ゴン! と
「ばっ、ばっかじゃねーの! ネットゲームのやりすぎで、頭おかしくなったんじゃね?」
遠巻きに見守るクラスメイト達は、加賀野が近付くと自然と左右に分かれて道を作った。その真ん中を自分の席へ大股で歩く加賀野は、やれやれと後を追う取り巻きコンビの奥から振り返った。
「……チーズバーガー、どこで買ってんだよ。おせーんだよ、いっつもよ」
加賀野の背中に、峰人は頬を緩めて笑った。
「駅前だよ、走って十分ってとこかな。ゲームと違ってリアルじゃ僕、足遅いから……」
「例のゲームも終ったことだしよ、
身を投げ出すように自分の席に加賀野は
そんな中、峰人と緋瑪だけが取り残された。
「伊勢谷くん、はいこれ……わたし、思い出したよ。半年前の、冬のこと」
そう言って緋瑪は、峰人の頭へと【エルフーミナル】をかけてやる。
それは転入を翌日に控え、母と共にこの
恐る恐る拾い上げ、放ってはおけぬと
今日は赤い
「あっ、ありがとう……朱崎さん」
「ん。ねえ伊勢谷くん、わたしに秘密にしてること、ないかな」
「え、えっ……ええと。うん、秘密と言うか……えっと、その」
「わっ、わたしもあるよ、伊勢谷くんに言わなきゃいけないこと」
周囲の声が遠くへとフェードアウトしてゆく。
緋瑪も今、勇気を振り絞って……ままならぬ我が身から言葉を
「あっ、あの! 僕、実は朱崎さんのことを――」
「わたしね……実は伊勢谷くんのことね――」
互いの秘密が
そしてそのまま、二人だけの未来へと
Brave Week Online ながやん @nagamono
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