丁寧に作られたゲームシステムの設定と、それに重ねるように進行する現実の問題とその解決法が、とてもうまくシンクロしていて、良かったです。
仮想現実のゲームと現実の生活が解離していないのは、とてもリアルで、押井守監督の「サマーウォーズ」を観ているような、不思議な高揚感がありました。
二人にとって、ゲームクリアがそのまま現実に向き合うきっかけだと、自分達で決めて、全力で取り組み、そしてきちんとクリア後に現実でひとつ成長した証を立てる。言葉にすると簡単でまどろっこしくもなりますが、本人達の葛藤と意志が上手に描かれていて、なんとも痛快で満たされた。
物語の舞台は、フルダイブ型のVR(仮想現実)デバイスが普及した近未来、2029年。
そのVRデバイスは現代のものより高度で便利ですが、近年のVR技術の目覚ましい発展を見ると、そのようなものもいずれ開発されるのではと期待できます。
そんな未来で、あることがきっかけでサービス終了間際のVRMMORPG【石花幻想譚】をプレイすることになった、人付き合いが苦手でRPGも初心者の朱崎緋瑪(アケザキ・ヒメ)。
彼女はそのゲームを通して少しずつ他人との関りを深めていく。
物語はそのように進み、ゲームから出られなくなったり、ゲームそっくりの異世界に転移したり、といった異常事態は(少なくともこのレビューを書いている第12話時点では)起こっていません。
普通の少女が、ただVRMMOを遊んでいるだけ。
だからこそ、作中の出来事はどれも「私たち自身にもいつか起こりうること」として受け取れ、未来のVR社会への期待が膨らみます。
臨場感たっぷりに描かれるVRファンタジー世界での冒険。単なるコマンド入力ではなく自分自身が魔力を得たかのように魔法を使う体験。
ゲーム内での対人関係の戸惑い。仲間との出会いとふれあい。
「ああ、早くこんなゲームがやりたい!」
そんな気持ちにさせてくれる、VRの魅力がダイレクトに伝わる傑作。おすすめです!