第29話「エンディングと、その先と」
世界の終わりがはじまった。
空に走る光の文字は、長年にわたる運営に関わってきたスタッフ達の名前らしい。浮かんでは消えるスタッフロールに、この場に居合わせた誰もが言葉を失い、ただ見上げるしかできない。それは世界のどこからでも恐らく、はっきりと見えるだろう。
同時に、運営チームの公式アナウンスが
『終わりと
瞬間、突然の強風に
「お、おい! あれを見ろっ! くそっ、フレにメールだ……何だありゃ!」
「なんてこった、【ブライダリア】は、この世界は――」
四方から驚きを叫ぶ声が上がり、緋瑪は
世界を覆う白い闇は消え去り、立ち込めていた
「これが、エンディングか……セキトさん、立てる?」
「う、うん。あれは?
【ブライダリア】をぐるりと囲んでいた、
【ブライダリア】は、天空の彼方より宙に釣られた巨大な浮遊大陸だったのだ。
――ビィン!
――ビィン! ビィン!
続けて次々と、
立ち上がった緋瑪はヒメと
最後の鎖が断ち切られるや、【ブライダリア】は音を立てて沈み出した。
呆れたようにサユキが溜息を零す。
「参ったわね、これは……公式のストーリーなんて、何年も前に更新止まってたから」
「友よ! 今日が【ブライダリア】最後の日!
腰に手を当て立ち尽くすサユキを
「あの、わたし……【
「僕もさ、セキトさん。みんな一緒だよ。でも、これで良かったんだ……多分。だから、エンデウィルが示した未来へ、胸を張って進もう」
解けた髪を風に遊ばせ、ゆるやかに落ちてゆく世界の中心でヒメは
その背後では、虚ろな呟きが誰にともなく零れ落ちた。
「終る……私の、【ブライダリア】が……
【ロード・ブライダリア】は一人、まるで夢に
「不眠不休のGMは、実はデータの
多くのプレイヤーにとっては、最後のイベントクエストは消化不良に終っただろう。万端の準備を整えて集ったものの、GMの突然の不正ユーザー処断にはじまり……
だが、不思議と周囲から緋瑪達を責める声は上がらなかった。
衝撃の展開がもたらすメンタルダメージが回復し、集中力や精神力といった変動パラメーターが安定した今、
親しい者が待つ場所へ、長年ホームタウンとして暮らした街へ……
感慨にふけっていると、不意に緋瑪の背後でサユキがにんまり笑った。
「っと、それよりヒメ? むっふっふ、お姉さん聞いちゃったわよん? やっぱりこの格好って、ヒメの好きな
「ちょっ、どこ触ってるんですかサユキさん! それは、その……は? 三角関係?」
まるで自分が触られてるような気がして、緋瑪も真っ赤になった。
「サ、サユキさん! は、恥ずかしいのでその、止めてくださ……ヒメ、逃げてよもう」
「セキトくぅん、お姉さんセキトくんのことも応援してるから……ここまで一緒に戦ったんだし、メールアドレスでも交換して、ね? むっふっふ、ガンバレ女の子っ」
「ハッハッハ! これにて一件落着! して、友よ。今後のことだが」
アルが高らかに笑いながらも、誰もが気にして口に出せなかった話題に触れる。今、四人の仲間の唯一の接点が、静かに思い出へと消え去ろうとしていた。
誰からともなく、これからのことを語ろうとした瞬間。
これからも――その一言を互いに引き出しあった緋瑪達は、突然の
サユキは、驚きすがりついてきたアルを引き剥がしながら笑っていた。
「ありゃ、いよいよ終末の時って感じ? 今日の午前零時まで待ってくれないのねぇん」
「
去りし友へと文句を
そして、エンデウィルのあの声が静かに響き渡る。
『今、ブライダリアは地表へと帰還を果たしました。鉱石よりも固く、宝石よりも
聴き慣れた優しい声が緋瑪の
天より舞い降りる
『
叩き付けるような海水の集中豪雨が終ると、
「これが……結実。可能性、未来……新たな、
「
その言葉に緋瑪は、己の胸の内に
それでも理想郷を求めてしまうのが、きっと弱く
『これまで【石花幻想譚】をプレイしていただき、
クリアボーナスの申請に関するアナウンスを残して、エンデウィルの声は去った。
緋瑪は仲間と一緒に、これからの四人へと思いを
未知なる神秘と冒険の新大陸へ向って、雨上がりの空に
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