第28話「BE BRAVELY!!」
『ただいま正午五分前、これよりイベントクエスト【
天より舞い降りる運営チームの公式アナウンスを、耳を
それを見上げて、【ロード・ブライダリア】が剣を構え直した。
「もうこんな時間か。では、決着を付けさせてもらう。不正プレイヤーを
あのシステムメッセージは徐々に増え、
瞬間、無数の光が
思わず突然のことに、【ロード・ブライダリア】の【オーバーロード・ステッチ】が途切れる。傷付いた身を震わせていたヒメも、サユキもアルも驚きに思わず立ち上がった。
それは、【プレイシェアリング】がもたらすエンデウィルの光。
一人で
その先にあしらわれた彫像の天使は、花びらのように六枚の翼を広げて抱く石を
静かにエンデウィルの声が響く。
「【ロード・ブライダリア】……今、マスターは無数の人々と【ブライダリア】を共有しました。
「馬鹿な……では、私は【ブライダリア】の民に、プレイヤーに拒絶されたということか!?」
「違います。ただ、マスターがこの場の多くの方から共感を得て、好意を持たれただけ……しかし今、私はその集う想いを力にすることができます。
エンデウィルを飾る天使の彫像より、輝きの
緋瑪の右手に今、光の槍が握られていた。
「フッ、フハハハ! そうか、少年に皆が……よかろう! システム上、死ぬことのない私を打ち倒し、その想いを【エンシェントハング】にぶつけてみるがいい」
暴風を大地へ叩き付け、嵐を
緋瑪は今、多くの者達から共感を得ることができた。しかし同時に、それが全ての総意ではないことも知る。冒険者達は口々に、どちらへつくべきかで
だが、それで充分だと緋瑪は思う。確かなことは、
寄り添い並んだサユキや、アルに
後はもう、
【ロード・ブライダリア】は揺るがず、緋瑪の前に立ちはだかり続ける。
「諸君の考えていることは解っている。【ステッチ】による
【ロード・ブライダリア】に応える
【クアドラブル・チェーン・ステッチ】……それはパーティの全員が響き合う
「【ロード・ブライダリア】ッ! 貴方はこの世界に自分を重ね過ぎたっ!」
地を蹴るヒメが
「ほほう!
「僕がこの世界で得た物は、数値じゃ、ないっ! 全部残らず、僕の現実へ貰っていく!」
ヒメの拳を
【ロード・ブライダリア】は自分を呼ぶ声に気付いて、手放すと同時にヒメを
そして、王と騎士の一騎打ちが始まる。
「真っ向勝負っ! 【ロード・ブライダリア】、お覚悟っ!」
「君もこの世界でなら、
「世に歌い終わらぬ
「ふむ、ならば別のキャラでまた、この世界を生きればよい。なにもこの世界を終わ――」
「
【ロード・ブライダリア】の言葉を
――だが、
それでも。
ステッチサクセス――捨て身の一撃にサユキが続く、そのことを告げる相棒の声を聞いて、緋瑪はよろよろと走り出す。その手に相変わらず、実況を叫びながら自分を
「次は……君か、レディ。君も見たところ、随分と【ブライダリア】に時間を、手間を……なにより愛を
「どんなにグラフィックが進化して、サウンドが良くなって……こうして全感覚を
「ふむ、それで? 最後は少年、君の番だ。さあ、やってみたまえ」
「――ステッチサクセス! マスター、今です! 私を全力でっ」
「うんっ! やってみる……やり
今や光の槍となり、その先端は光そのものとなったエンデウィル。彼女を真っ直ぐ構えて、緋瑪はよたつく足で
冒険者たちが見守る中、公式アナウンスの声だけが響き渡る。
『ただいま正午一分前、これよりイベントクエスト【結実への意思】……第八次【エンシェントハング】攻略戦開始のカウントダウンを開始いたします。59、58、57――』
秒読みの中、永遠にも等しい一秒を重ねて緋瑪は走る。
「ふっ、恐ろしいバグだな、少年。【プレイシェアリング】に連動して威力の上がる武器。当ればどんなモンスターとて倒せるだろう。だが、私は
公式アナウンスの声も、口元を
【ロード・ブライダリア】へ……その背後にそびえる、【エンシェントハング】へ向って。
カウントダウンを聞きながら、いよいよ幕切れと剣を振り上げる【ロード・ブライダリア】。勝利を確信した彼は、見下ろす
「――ステッチサクセス! ヒメは続いて体術を使った! ……【ロード・ブライダリア】。全てが思う通りに進む、
緋瑪は視界の隅で、真っ赤な影がゆらりと立ち上がるのを見た。
血相を変えた【ロード・ブライダリア】の声を掻き消すように、緋瑪はありったけの声で叫ぶ。
「では、最初の一撃は――しかし、私が抜かれることなど論理上、ありえないっ!」
「やってみなくちゃ、わからないっ! ……ヒメッ、わたしを助けて……手伝って!」
もう一人のヒメが、走り出す。
徐々に加速して、小さな拳を引き絞る。
「おおおっ、ブチ抜けぇぇぇっ!」
――
それは
【クアドラブル・チェーン・ステッチ】の最後を
苦し紛れに投げ付けられた【ロード・ブライダリア】の大剣が
淡々とカウントダウンが続く中、光の中で緋瑪は死力を尽くす。
気付けば、エンデウィルを握る手にヒメの手が重なっていた。
二人で握るエンデウィルが、ゆっくりと【ロード・ブライダリア】を貫いてゆく。
『ただいま正午三十秒前。29、28、27……』
「ばっ、馬鹿な……演算が、処理が追いつかぬ。オーバーフローなどと……」
するりと静かに、緋瑪の手の中をエンデウィルが
『03、02、01……これよりイベントクエスト【結実への意――』
不意に、手の中の感触が消えた。
気付けば緋瑪はヒメと手を握り、二人で後に倒れこんでいた。
そして、エンデウィルの声だけが優しげに響く。
「【ロード・ブライダリア】……私と同じく創造主に生み出されし、この【ブライダリア】を見守る存在だったモノよ。私が『未来』を託されたように、貴方は『現在』を与えられました。しかし、使命に忠実すぎた貴方は、それを『永遠』と思い違えてしまったのですね」
静かな声は、徐々に小さく細くなってゆく。
「皮肉にも貴方は、貴方が最も愛した【ブライダリア】の力、【プレイシェアリング】により破れたのです。それは『世界の共有』であると同時に『祈りを支え合う想い』なのだから……多くの未来を願う祈りに、貴方の
【エンシェントハング】の巨体が、一撃で静かに
「お別れです、マスター。皆さんへ、そして【ブライダリア】に生きる全ての民へ……私の持つ会話ログの中から、もっとも多く
――ありがとう。
最後に派手なエフェクトを
緋瑪はただ、黙ってヒメと手を
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